スズランテープ

侍のスズランテープのネタバレレビュー・内容・結末

(1965年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

間違いなく史上最もかっこいいタイトルバックの一つといえる。
これはめちゃくちゃ好きなやつ。
江戸末期を描いた、岡本喜八による時代劇。
時代劇というジャンルをフルに活かして極上の人間ドラマに仕上げていた。


今作は今まで見てきた岡本喜八作品と同様に、ジリジリと盛り上がり、ラストで爆発するような作品だった。ラストの印象を最大限に引き出すために、土台の設置、ストーリーの骨組みの組み方、伏線の貼り方が周到で丁寧だった。ストーリーだけでなく主人公の心情や人間関係もサスペンスフルに盛り上がっていく感じも好み。

ストーリーもキャラクターも一貫して主人公の侍を軸として描いているので長尺だが、まとまりがあって飽きなかった。

キャラクターに無駄がない。一人としてストーリー上でいらないキャラクターがおらず、のちの主人公の悲劇に一直線に繋がる。岡本喜八作品のキャラクターは本当にどれも生き生きしていて、役者の見た目のインパクトもパフォーマンス完璧といえる。さらに悪VS正義と言った単純さはまるでなく、泥臭く血に染まった冷血な人間模様を描いていた。人間的に最も好感の持てる人物を中盤に主人公に殺させる徹底ぶり。友と相反する時代劇ではお決まりの展開だが、見せ方やそれまでの過程から絶大なインパクトを感じた。

そしてラスト。前述したようにラストまでの布石の打ち方がまず素晴らしい。それに加え、シンプルに1シーン1シーンも素晴らしい。
白黒時代劇では類を見ない残酷描写。セリフは少なく、侍たちが降り頻る雪の中断末魔の叫びをあげ、狂乱の中敵を斬っていく。

本来無骨なかっこよさや渋さが描かれることが多い侍映画だが全くかっこよさはなく、ただひたすら酸鼻を極めた描かれ方がなされている。武士道などクソ喰らえと言った具合だ。

こう言った普段の映画ではかっこよく描かれるものを醜く、愚かで、哀しく描く作品は名作が多い。スコセッシの『グッドフェローズ』だったり、不良の幻想を打ち砕いた北野武の『キッズリターン』だったり、そんな映画たちのさらに数十年前にこのような描かれ方がなされた侍映画があったとはなかなか興味深い。

最後に今作は時代劇だがストーリーラインが少し西洋的で面白いと感じた。父親殺しをするあたりもギリシャ悲劇っぽい。そこも面白かった。

ラストの凄まじいワンショットを見るだけでも価値がある傑作。私はこういう映画はとても好きだ。
スズランテープ

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