おいしいとまと

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのおいしいとまとのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

初ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)作品!!

今作は20世紀初頭に起こった石油ブームの最中、一人の人物が成功を掴み取るため私利私欲の限りを尽くし、アメリカきっての石油王になるまでの課程を描くという一大叙事詩なのですが....。

普通こういった伝記映画って、一念発起する→挫折を経験する→最終的に大成功→終。
みたいな感じになかなか上手くいかないなか、主人公と仲間が解決策を発見し、共に成長していって、要するに単にサクセスストーリーとして終わらせることはないんですよね。

ですが、本作は後に石油王となる主人公のダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)が歩んできた道のりを彼自身の視点で語っているため、彼自身が良かったなぁと思う部分だけを切り抜いて映像にしています。要は挫折や苦悩が描かれないということです。

訪れた土地で石油を採掘するために、もともとその土地に住んでいた住民たちを半ば洗脳してまで土地を買収したり、自身の息子が不慮の事故で聴力を失ってしまい、仕事の邪魔になるからといって孤児院に預けてしまうなど、本当に利益のことしか考えない酷い人間になっていきます。

物語の中盤には、その土地をなかなか譲ってくれない住民から自分たちが加入している宗教に入信すればその土地を譲る、と言う発言に踊らされて、信仰心も何もないままに加入すると言う宗教を軽んじるような行動まで起こします。ましてや、その土地に来た日に、この教会にお金を寄付すると言っていたのですが、なかなか寄付せず、怒ってきた伝道師のイーライ・サンデー(ポール・ダノ)に対しても怒りをあらわにし、みんなに見えるように痛めつけたりもしています。ここまでひどいことをしたら、天罰が下ると思うのですが、本当に何も罰を受けないままクライマックスを迎えます。

この映画全体を通して言いたいことと言えば、まず人間の欲望の奥深さが挙げられます。そして隠れたテーマとして神を信じない、いわば無神論的な考えも登場しています。イーライが金銭的に厳しくなったからといって、主人公のもとに訪れ、助けを求めるも、主人公に催促されて、簡単に神を信じない的な発言をし、殺害されている描写のように、神にばかりすがって努力をしようとしない人に対する、憤りのようなものも感じられました。金の前では神など無力ということでしょうか....。

PTA監督の絵作りも凄まじく、中盤の油性の大炎上シーンは圧巻でした。広大な平原に立ち昇る一本の火柱は、石油採掘の難しさを感じさせるのと同時に、これから隆盛していくであろう、石油産業の力強さが伝わってきました。

158分というそこそこ長い上映時間ゆえに、見るのを躊躇っていた作品でしたが、見てみると意外とあっという間でした。作品の題材が最近公開されたスコセッシ監督のキラーズにも似ていて、やっぱり石油をめぐる話にはこういったいざこざがつきものなんだなとも感じましたね。
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