S

彼女について私が知っている二、三の事柄のSのレビュー・感想・評価

3.6
2020/12/24 DVD

ゴダールの作品が物語を離れ、エッセイ的色彩を強めだした最初の作品。
パリ郊外のマンモス団地に住むジュリエット(ヴァラディ)は、夫を職場へ送り出し、娘を託児所に預けると売春を始める。
カフェで男を探し、得た金で洋服を買ったり、オシャレをする。
ヴェトナム帰りのアメリカ人から法外な大金を受け取る。
こうした一人の主婦の日常生活を通して、現在のパリを襲う政治ー経済的な変動が分析される。〈彼女〉とは、女性形が語られたパリに他ならない。
(「ゴダールの全映画」より引用)

DVDの特典映像にて、フランスシネマテーク元館長とスイスシネマテーク元館長の対談にて印象深いフレーズ。
「ゴダールが、カメラの前では現実も‘’イメージ‘’だと言った。
あらゆるものは撮影された時点でイメージになる。この作品は、‘’現実‘’を撮影出来ないと表明していることに意義がある。」
また、アンディ・ウォーホル、ヌーヴォー・レアリスム、コラージュや広告など、アメリカ芸術の影響が強く見られる。

ゴダール作品の中でも、マリア・ヴラディというメジャーではない女優を起用、地味目のルックスだが魅力的で、団地妻の役に合っている。売春相手の青年とホテルで落ち合い、真っ赤な口紅を塗る場面が好き。
女性を美しく撮るゴダールのスタイリストぶりは、本作でも健在。
日本の高度成長期に重なる、大きな団地というロケーション。窓際に立つヴラディと、その背後に聳え立つビルなどの街並みに、‘’彼女‘’というのは、パリを意味することを示す。
室内に配置されたインテリア、壁に貼られたポスター、キッチンに置かれた雑貨類のパッケージ、カフェにいる女性達のファッション。そういったポップな色彩のシークエンスが魅力的でたまらない。
男が注文したブラックコーヒーを混ぜ泡が渦巻くシーンのアップなど、対比するイメージを挿入するのが印象深い。
会話の内容は所々政治的で難しいが、後の政治映画と比較するほどではない。囁く声のナレーションはゴダール自身と思われる。
『イメージの本』への原型が、本作から少し垣間見えた。
S

S