明石です

彼女について私が知っている二、三の事柄の明石ですのレビュー・感想・評価

3.9
娼婦として働く”彼女”について綴る男の独白。作中に「お決まりの話だ。男に騙され、子供が生まれ、捨てられる。1年後、別の男と同じことを繰り返す。母子院では更生を誓うが、同室の女たちから教わったことは、いかに2人の子供を養うかだ。退院後は工場へ戻るが、夜は売春をする。やがて、お人好しの男と結婚して、アパートに住むが家賃は高い。3人目の子供で、万事休す。彼女に売春させるのは夫自信なのだ」という台詞があるけど、まさにそんな感じのお話でした。

私の知る限り60年代のゴダール映画では最も内省的な部類に属する1作。画面いっぱいに広がる内向きの哲学。良くも悪くも、絶えず思考しながら作ったような感じ。正直面白いかどうかでというと、微妙でした。「言葉は人間の棲む家」みたいな警句を中心に進行する複数の断片(物語ではない)。やっぱり曲がりなりにもストーリーがなければ映画じゃないなと思う。少なくともある種のオーソドックスさは必要だなとも。

アメリカの国旗をプリントしたTシャツを着た男が「あいつらは阿呆だ。ベトコンひとり殺すのに国庫を10万ドル使う。同じ金で、ジョンソンは彼女たちを2万人買えた」と嘯いてみたりと、作中に散りばめられたベトナム戦争への風刺の意図は明確。というかそのために作った映画なのではと思えるほど。そしてその彼、着ているTシャツについては、ジープとナパームを発明した国の国旗だ、とのこと。駄目だ笑っちゃう。

この数作後のゴダールは左翼路線に軸足を移し、政治的な映画作りに邁進するわけで、その直前に作られたいわば跳躍前の屈伸みたいな小品。私にはそこまで良さがわからなかった。あと主人公のナレーションが全編小声なので、字幕付きで見る分には良いものの、原語で見る人(フランス人含め)は聴き取るのが大変だろうなと思う笑。字幕の助けがあっても疲れるけどね。

ただラスト付近ではっと目の覚めるような箴言に出会えたので少し過大評価しちゃおっと。「本当の愛情と嘘の愛情の違いが分かる?私が何も変わらないとき、愛は偽物。私が変わり、愛する人が変わる時は本物」

——好きな台詞
「あなた物知りみたいだけど、自分のことも知ってるの?」
明石です

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