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ルート・アイリッシュの一人旅のレビュー・感想・評価

ルート・アイリッシュ(2010年製作の映画)
4.0
ケン・ローチ監督作。

戦地イラクで死んだ親友の死の真相を暴くべく奔走する英国人民間兵の姿を描いたサスペンス。

イギリスの名匠:ケン・ローチが、イラク戦争(2003~2011)における軍事ビジネスを題材に撮り上げた陰謀渦巻くサスペンスの佳作。ケン・ローチと言えば麻薬や貧困、不法移民といった現代欧州が抱える諸問題をテーマに、社会の底辺に生きる人々の日常風景に焦点を当てた作品を好んで撮る社会派の映画作家ですが、本作はそうした作品からは一歩離れて、イラク戦争における軍事ビジネスの実態を現地イラクではなく故郷イギリスに戻った英国人民間兵の視点により暴き出しています。

イラク・バグダッドで民間兵として働いている親友がテロリストの潜む危険道路ルート・アイリッシュ(バグダッド空港と安全区域グリーン・ゾーンを結ぶ約12kmの道路)を走行中に襲撃を受け死亡した事件を発端として、親友の死に不可解な点を認めた民間兵:ファーガスが、親友の死の直前に民間人殺害事件を巡って対立していた残忍な同僚民間兵:ネルソンの身辺を独自調査するが…という“戦死した親友の死の真相を巡るサスペンス”で、戦争を単なる金儲けと考える人間の倫理観の欠如と、遠く離れた異国で起きた一つの事件が場所を変えて連鎖的に新たな暴力を引き起こしてゆく様子をサスペンスフルに描き出しています。

正規軍ではなく“民間兵”という合法的軍事ビジネスには自ずと資本主義的システムが働きます(本作ではM&Aの絡んだお話が…)。日本が50年代の朝鮮戦争で特需景気を迎えたように、いつの時代も戦争は一部の人間にとって金を荒稼ぎする絶好のチャンスでもあるのです。そうした事実を踏まえた上で、ケン・ローチは無実の人々が犠牲にされる戦争の不毛さと、戦争を単なる金儲けのための道具として考える人間の危うさを迫真性を持って白日の下に晒しています。そして主演のマーク・ウォーマックが示す底知れぬ怒りと取返しのつかない悲しみを混在させた熱演に圧倒されるのです。
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