なべ

ゴーストワールドのなべのレビュー・感想・評価

ゴーストワールド(2001年製作の映画)
4.4
 大好きな映画。でも万人向けじゃないので、これまで誰に薦めるでもなく、こっそりと好きでいた。うん、3,000枚限定のコレクターズDVD BOXも買ったけど、誰にも貸したことはない。だから劇場公開するって噂を聞いたときは、すごくそわそわと浮き足立つような気持ちになった。もちろん観ない理由などないのだけれど、秘密の“好き”をカムアウトするような気恥ずかしさがあってね。
 劇場はほぼ満席。しかも世代を越えてた(性別は圧倒的に女性が多かったけど)。へえ、こんなに愛されてたんだ、この作品。やっぱり刺さるポイントが多いからね。
 久しぶりに会うイニドとレベッカ。そうそう、イニドはティーンならではのハリのある体型だったわ。このインパクト。この唯一無二感。ソーラ・バーチは役のために太ったんだよね。
 イニドは舐めた口をきくクソ生意気な高卒女子なんだが、いちいちその感受性へのわかりみがすごくて。てか、いまだにぼくは人の動作を真似して小馬鹿にしてる大馬鹿者だからね。
 サブカルやカウンターカルチャーが好きな人は概ねそうだと思うが、いつもおもしろいことを探してて、イケてないものをバカにするよね。ぼくもそう。この姿勢は一生治らないかも。もうシーモアみたく、生き方になっちゃってるんだよな(シーモアは非理解者をバカにしたりはしないけど)。
 はみ出し者ゆえ、好き嫌いがハッキリしてるイニドとレベッカ。特にイニドにはジャッジの基準がちゃんとあって、そのルールに則って貶してる。貶しまくる。いいよね、そういうとんがり方。
 だから冷やかしでシーモアから買ったレコードも“正当に”評価できるのな。我が道を行くシーモアの生きざまがわかるにつれ、キモオタから求道者へと判定をアップグレードしていくところがいい。
 これはブシェミの演技なのかツワイゴフの演出なのかわかんないけど、観客にもシーモアがだんだん味のある男に見えてくるから不思議。
 ぼくの身の周りにもマニアやオタクは大勢いるけど、キモオタと求道者の違いって、中身が愛か執着かの差だと思うんだ。シーモアがどんどん素敵に見えてくるのは、きっとツワイゴフのはみ出し者へのまなざしが優しいからだ。
 「こじらせ」ってワードは便利だけど、イニドをこじらせ女とは呼びたくない。増大する自意識を持て余し、疎外感を募らせていくいらだち。自分でいることと、大人になることが両立しないことへの腹立ち。そこんところで足掻いてる人を「こじらせてる」で片付けたくないのよ。たぶんこの辺への痛い共感がこっそり好きでいた理由なんだと思う。
 ぼくもレベッカのようにコミュニティや社会と折り合いをつけて表面上はフツーを装ってるが、朝の3分スピーチで「ララランドを見て感動しました」なんて奴を心底軽蔑してるし、そんな感性ではいい仕事できないでしょと決めつけてる。
 イニドは疎外感を抱えたまま、ひとりバスに乗ってしまったけど、彼女の孤独を思うと(今見ても)胸が痛んだ。そして、うまいこと社会に溶け込んでる自分が、なんだかイニドを裏切ったような気がして、いたたまれない気持ちになる。ごめんよ、イニド。

 レベッカのことを触れなさ過ぎたので最後にひとこと。スカーレット・ヨハンソンはレベッカ役を15歳で演じてるんだけど、すごくない?
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