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翔んだカップル オリジナル版のKinaponzのレビュー・感想・評価

3.7

高校に入学したばかりの勇介 (鶴見辰吾)と圭 (薬師丸ひろ子) 。

ひょんなことから

東京での新生活をともに一つ屋根の下で
スタートさせることになった二人の

半年余りの歩みを活写しています。


この映画には “大人” が出てきません。


担任の和田先生が登場していますが、
あくまで教室や行事におけるやりとりだけで

彼らに個人的に関わることはなく


親も親戚も、出てきません。


和田先生の他にバー (?)のマスターが登場しますが、
勇介とわたる (尾美としのり)とは
やはり口は利かずじまいです。


このことが意味しているのは


高校一年になったばかりの男女に
意見する大人が誰もいないということです。


教訓を垂れたり、教え諭したり叱ったりする年長者の言葉から

彼らはまったく影響を受けることがないのです。



大学二年の星田 (真田広之)に、一時圭が惹かれたときにも

圭が一方的に問い詰める方で、
星田はカッコつけてもっともらしいことを云うより前に

つまり助言することなく圭から逃げ出します。


説教くさいところがまったくなく

また誰かがどこかへ導こうとすることもありません。


この映画を進ませるのは、

あくまでも彼ら自身なのです。


十六歳という、
こどもっぽさと大人びた面とのどちらも併せ持ち

かつどっちつかずな不断の揺れが、
この映画の推進力となっていきます。



役の年齢と実年齢が
ほぼ一緒の四人 (勇介、圭、わたる、秋美) が

とにかくすばらしく



秋美 (石原真理子) はすでに
大人の女性の片鱗を存分に示して余りあります。

勇介と圭は面差しが変わる前のあどけなさや幼さを残しつつ

四人との関わりの中で、その顔つきがかわっていきます。

溌剌と健康的に。


特筆すべきはやはり主役二人の演技で、

衒いや気負いなく、役その人を演じきって見事です。


なかでも圭を演じた薬師丸ひろ子は

口跡鮮やかで、無邪気で天真爛漫、
圭その人を彷彿とさせます。


勇介がボクシングの練習試合の後、
秋美のマンションで荒れているところへ圭が訪ねてきて

勇介と言い合うシーンは何度繰り返しても
見ていられる名場面です。



そうしていよいよ物語の終盤、勇介の気のゆるみから
二人の同棲がわたるから教頭に密告されてしまい

遂に大人の介入を招いてしまいます。

(ただ、それでも大人との直接のやりとりは描かれず、
それは最後まで保たれます。)


それと同時に四人の境遇は解体され…


勇介が、新人戦のリングへと向かうところで終幕です。



翔んだカップルには、

つまらないオトナたちには決して干渉させない、


この作品を他の誰のものでもない

十六歳の彼らだけのものにしておきたい、という


相米監督のつよい信念が、あざやかに結晶した作品で

いまなおその輝きは失われてはいません。
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