たくまさん

スワロウテイルのたくまさんのネタバレレビュー・内容・結末

スワロウテイル(1996年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

故郷喪失ものにあてはまるのかな。いやでもタルコフスキーのそれらとはまた違う。

そもそもアゲハには喪失する故郷がなかった。名前もないし、円を求めて祖国を出たわけでもない。歪な輪の中に突然放り込まれただけだ。だからこの作品は、言うならば故郷を確立する少女の話だ。
彼女にとって円は何の価値もないただの紙切れで、みんなが欲しがるから沢山刷っただけにすぎない。ならば彼女にとって円都とは何なのか、何のために自分はここにいるのか。そこで生きる理由が彼女にはない。つまりはアイデンティティがそもそも存在していなかった。
だから彼女は場所に意味をもたせることをやめ、人に意味をもたせることにした。それがグリコやフェイホンだったのは言うまでもない。
最後にフェイホンは死んでしまうが、そこでようやく、失って初めて円都が彼女にとって大切な場所となった。フェイホン曰く、人は死んでも天国には届かない。何故なら雨になって地に落ちてしまうからだ。いやしかし、ならば天国とはここなのか。

円は線の完結ではなく、終わらないループの始まりだ。蝶になり抜け出すことが出来なければこの因果はどうしようもなく続いていってしまう。
円を求めるのではなく縁を求め、ついに見つけた彼女はもう芋虫ではなく蝶へと変態した。
しかしまだ、彼女の胸にある蝶は飛んでいるというよりも、どちらかといえば留まっているように見える。いずれ円都は無くなってしまうだろう。しかしその時ようやく蝶は飛んで行くはずだ。