Jeffrey

コロッサル・ユースのJeffreyのレビュー・感想・評価

コロッサル・ユース(2006年製作の映画)
3.8
‪「コロッサル・ユース」‬

‪冒頭、リスボン北西郊外。

古来からカーボヴェルデ諸島出身のアフリカ系移民、近代的な集合住宅、強制移住、労働者の1人、途方に暮れる男、荒廃した貧民窟、対話。今、自分の場所を見出そうとしていく…

本作はペドロ・コスタが骨、ヴァンダの部屋に続いて監督した力作で、この度初見したが素晴らしい映像構造だ。

この映画冒頭からすごい引き込まれる。

黒を基調にした映像が多いため4Kとかで見たら最高だろうなぁと思う。廃墟の2階から椅子や扉を投げ捨てる男の姿が微かに見え、次のショットでは黒人女性が手にナイフを持ち1人で独白する。

そして徐々に画面の後に引っ込み姿を消して行く…次のシーンでは男が嫁に出ていかれたことを伝える。早い段階で物語の意図するものを観客は理解し始める。

前作も本作もそうだがコスタの作品には有名な役者は誰1人と出てこない。

主に本作の主人公とみられる黒人男性のヴェントゥーラは希望のない現在、未来よりも思い通りにできていた"過去"にしがみ付くような感じが映画から見て取れる。よくわからないがシュルレアリスムの詩人として知られるR.デスノスが書いた手紙を下敷きにしているのをヴェントゥーラが読み上げるのだが、この素敵な文章が胸にくる。

貧困に生きる彼には当然学力も知識も知恵もないように見えるが実はそうでは無い。

こういった世界の隅っこ、もっと酷く言えば爪弾きにされた人々には多くの素質や才能がある…

これらを監督は映画と言うフィルターを通して伝えたかったんじゃないかと個人的には思う。

引用するとあまりにも文章が長くなってしまうためやめておくが、実に本作に出てくる手紙の文は印象的だ。

まるで本作とは別に手紙の中の映画を感じ取れる。よく政治家や芸能人の暴言とも思える所謂"失言"の中には多くの"真実"が隠されているのと同様に、本作の手紙の文には真実と本当のドラマが見え隠れしていると感じる。

さて、物語はヴェントゥーラを中心にその周りをめぐる人々の関係や思いを独白や手紙の文で観客に伝える方式をとる作品で、舞台は「骨」からのフォンタイーニャス地区で連続的に撮られている。

前作の「ヴァンダの部屋」では既に取り壊されていた街の一部だが、本作では見るも無残に消え去っている。

昔にホセ・ルイスゲリン監督の「工事中」と言うドキュメンタリー映画を見たのだが、それもこのような取り壊しを集中的に撮っていた。彼の作品の中では傑作中の1本だった。

それを今ふと思い出した。

とりわけ本作は神秘的な白い建物と被写体の黒色の輝く肌とのローアングルの撮影が神々しく、前作の作品とは対照的でそこに神話的な要素を感じる。

基本ドキュメンタリーは長回しが特徴的だが、本作はそれに加えてどこかしら絵画的な構図を感じるし、荒涼とした日常の風景と共に葛藤していく母や旅人が存在する。

もともと初期作品のコスタの作品は詩的感情が主な演出の1つだったが、2000年以降からは状況設定ショットが彼の新たなスタイルになっていると思う。

だがこれは運良く私が彼の作品を連続して観たから感じ取れたもので、毎回数年ごとに公開される彼の作品をインターバルとして鑑賞してしまうと、中々気づけないかもしれない…。

貧困をテーマにさらに麻薬依存性の怖さをテーマに、点々と労働者が家を変えていく演出を固定されたカメラと自然光で撮影された「コロッサル・ユース」は間違いなくコスタ映画史上最高傑作としか言いようがない1本である。

だが個人的には「溶岩の家」が1番好き。
‬ ‪さて、物語は"ア"系移民のヴェントゥーラは長らくリスボン郊外の再開発地域で暮らすが、突然妻に捨てられ途方に暮れたる…‬。
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