Yoshishun

その男、凶暴につきのYoshishunのレビュー・感想・評価

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)
4.5
10月7日公開の『アウトレイジ 最終章』に向けて、北野武監督デビュー作を中学以来の約6年ぶりに鑑賞。

やっぱりこれが原点にして頂点であるように思う。以降の作品にも表現される"死""暴力""沈黙"といった北野作品で描かれる上で欠かせない要素が処女作から詰め込まれていた。

特に本作は間の使い方がすこぶる上手い。仏映画のような長回しカットよりも淡々と物事が進んでいく過程が描写され、その長い間の中に登場人物の表情や心情が詰まっているようだった。または単に次に何がいつ起こるのかがわからない、そんな緊張感を味わうこともできる。また、基本無表情であるシーンが多いのも大きな特徴。自分の凶暴性を覆い隠してるように見えるから思考が読み取れないし、余計に人間的な怖さが増す。

日本版『ダーティハリー』とも云うべき、警官らしからぬ行動の数々が暴力性に満ちており、それが時に恐怖を植え付け、時に可笑しく思わせる。日本の綺麗に纏まった刑事ドラマにおける追跡劇からは想像できない、より現実的でカッコ悪い追跡劇がその暴力性を顕著なものにしている。

この1人の刑事の物語を抜き身なく描ききった北野監督はさすが世界のキタノと呼ばれるだけの実力がある。派手なシーンが無くとも、随所に散りばめられたセンスの塊のようなシーンの数々に唸ってしまうこと間違いない。我妻の異様な存在感と共に、単に1人のお笑い芸人が監督した映画という枠付けで終わってしまうことは絶対にないと確信できる、そんな今の監督の才能と狂気の原点。
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