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おくりびとのhatthiのレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
4.0
この映画では3つのことに注目した。
1つ目は「生と死」が常に隣り合わせに描かれていたことだ。妻が近所の人にタコを貰ってくるが、タコがまだ生きているのに驚き、殺すことができず、二人で海に戻そうする。しかしタコはそのまま浮んで死んでしまった。そのシーンから彼らが「生」や「死」をまともに扱うことができない存在として表現されていた。このように映画では「食べ物」「遺体」がいくつもの側面を持ったものとして用いられており、映画に深みを与えていた。食べ物は「ご遺体」であり、生きていく上でなくてはならない。人間の「ご遺体」もまた納棺師という職業上、生きていく上でなくてはならないものでもある。食べ物はまた、大悟の仕事の慣れを表すバロメーターの役割も果たしていた。最初は仕事の後は食事が喉を通らなかったのが次第にふぐの白子やフライドチキンなど「ご遺体」をおいしく食べれるようになっていく。一番印象的だったのは社長の部屋が「死」を扱う職業なのに対し植物園のように多くの植物があり「生」に溢れていたことだ。社長はフグのシラコ焼きを主人公に勧めながら、食べることも遺体を処理することだと語ったシーンから現代人が普段忘れてしまっている植物や動物の命を頂くことで生きていくことができているということを改めて認識できた。
映画全体から生の不条理、死の不可避を深く理解していながら生きること、食べることに固執せざるをえない人間の悲しさが描かれていた。死に向き合い、死を意識して生きていくという 本来的な生き方は、決して悲壮な面持ちで日々を暮らさねばならないということではなく、この社長のように生きていくことかもしれないと思った。

2つ目は三幕構成がしっかり使われているところだ。第一幕では、主人公が、周囲に理解され1人前の納棺師になるまでの物語であることが設定され、そのことが目的として示される。第二幕では、主人公が目的を達成するために、葛藤する様子が描かれる。第三幕では、周囲に理解され1人前の納棺師として生きていくことが描かれていた。三部構成のためとても分かりやすく観やすい作りになっていた。

3つ目は納棺師という仕事を題材にしたことで日本のみならず世界中に知ってもらうきっかけとなったことだ。あまり知られていないことを映画の題材にすることで光の当たらない人々にも光を当てることができ、多くの人に知ってもらうことができる。そんな映画の影響力や素晴らしさをこの映画から再認識できた。
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