SatoshiFujiwara

ブロンド少女は過激に美しくのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

4.4
それにしてもこの悪意と企みを秘めた優雅さには実に惹かれるものがある。素晴らしいわ。オリヴェイラのエッセンスがパッと見はシンプルながら濃厚に凝縮された傑作だ。

さんざっぱらオチを引っ張っておいて最後にああ落とすか! というのは、われわれは映画においてはもっと劇的にドラマタイズされたものを求めていることに対するアンチテーゼであろうし、あるいは人生ってのはそういったものだということでもあろう(このオチには伏線があり、それは「150ユーロのハンカチ」「ポーカーのチップ」「港での帽子」がどうなったのか、で仄めかされる)。会計士のマカリオは自分ではなんら主体的にアクションを起こさず与えられた条件のもとに動き、まるで人生ゲームのように富を得ては失い、を反復する。

で、画面や音がいちいち美しい。最初の列車内/ルイス・ミゲル・シントラが奥でカエイロの詩を朗読するシーンの屋内/マカリオとルイザが2度目に路を隔てて視線を交錯させる(書類と扇子の所作の類似!)それぞれの固定ショットの斜めの奥行ある構図の統一。マカリオがルイザに紹介される屋敷で、ハープが演奏されている部屋に至るまでの滑らかなカメラの横移動。金を失ったマカリオが一時住むアパート屋内の深々とした壁の緑とタンスの茶色。ルイザが窓際に現れるタイミングに鳴る鐘の音(ラストで「事件」が起きた後には違ったリズムで鐘が打ち鳴らされる。ここでのルイザの脱力シーンの美しさ。死んだのかとも思った)。エンドロールでの去りゆく列車を捉えたショットへの唐突かつすっとぼけた移行と汽笛の音、などなど。

真に豊かな映画とは、こういう映画と思う。

※ちなみに列車内でマカリオから話を聞くご婦人の視線の焦点が合わず、マカリオの方をほとんど見ないのも実に妙な雰囲気を醸し出す。最初は目が見えない人と思うだろう(いや、目が見えると確信できる描写はない。目が見えないのかも知れない)。冒頭の「友にも妻にも話せないことは見知らぬ人に話すべし」のようなエピグラフの後にこういう人が映し出されるのは、究極的な人それぞれの「単独性」を表したもの、とは深読みか。
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