肥満児フィン

ツィゴイネルワイゼンの肥満児フィンのネタバレレビュー・内容・結末

ツィゴイネルワイゼン(1980年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

初鈴木清順。渋い奇人の原田芳雄、紳士な藤田敏八、二役演じる大谷直子、独特の色気漂う大楠道代。アングラ邦画の傑作と喩される本作。何を隠そう、当方は生まれも育ちも本作の舞台である鎌倉である。世田谷へと引っ越した今、改めて鎌倉市民であるうちに観ておけば良かったと後悔。
開幕から鎌倉に2〜3月頃に吹く、肌寒くてザラザラした、潮風を感じさせるような独特の色彩や画が続き、それはやがて死を予兆させる只管に薄気味の悪い、ジメジメした物へと変わる。
女に振り回される男達か、或いは本能で男に振り回される女達か。我々男女が求め合う物など、結局は性、肉体が全てなのかも知れない。原田芳雄は言う。「人間一番美しいのは余分な肉と皮を削ぎ落とした骨だ」と。明らか劇中の彼は女癖が悪く、そう誠実そうには見えない。しかしそんな彼が呟いたように、我々は燃え尽き、骨となった姿が一番無駄なく美しいのかもしれない。そしてそこに、生死の境界線は必要無いのかも知れない。
劇中、サラサーテのツィゴイネルワイゼンを鑑賞する原田芳雄と藤田敏八は、オープニングに登場した「君、何か言ったかね」から始まる会話をする訳だが、思い返せばもうその時点で、彼らは皆故人だったのかも知れない。