このレビューはネタバレを含みます
怪異に遭遇した人物が精神に異常をきたす結末になぜ人は恐怖を覚えるのか、というネット怪談の怖さの正体について、人間は例えば狂犬病のような、自己を喪失し別の生き物へと変容してしまうことに根源的な恐れがあるのかもしれないと小中千昭は考察をしていた。本作における「寄生虫」はかなりSFチックな描画をされてはいるが、怖さの中核を成すのはやはり、昨日までは普通に会話ができていたはずの人間が急に別人のようになってしまう、という得体の知れなさで、この視点で物語を捉えると、後の黒沢清自身が脚本を務めた作品においても、『Door III』で培ったイズムは継承されているように思えた。
窓を覗き込むと匿名の群衆がこちらを見つめている構図や、人が唐突に車に轢かれるショットの見せ方、もはやサスペンスではなく明らかにホラーへとジャンルを縦断しながら紡ぎ上げる物語像と、『CURE』『予兆 散歩する侵略者』『Chime』『Cloud』へ繋がる片鱗が既にかなり見られる。男性から女性へと優位が傾く、あるいは、性差を消し去るツイストの効いた結末は、『マトリックス レザレクションズ』が2021年にようやくやったことを25年も前に先取りしていて、小中千昭の先見性が光る。