[ディスコミュニケーションと顔面クローズアップ]　80点

傑作。山を隔てた二つの村で、言語も宗教も異なる人々が暮らしている。ある日、羊飼いファーミンは隣村の青年ハンスに牧羊犬を殺されてしまい、腹いせにハンスの婚約者エルシーを誘拐する。実家に連れ帰って監禁するんだが、一部始終を老母が呆然と眺めているのが印象的。サイレント時代から続く顔への興味はクローズアップとして再登場し、無計画に可憐な少女を誘拐して惚れてしまうファーミン、彼のことが好きだったのに突然女を連れ帰ってきたことに驚くジャンヌ、彼を骨抜きにすることで死んだ弟の復讐を果たそうとするエルシー、それぞれの思惑を代弁する。登場するほとんどの人物がそれぞれの憎しみを中心に行動していることから、ある種"戦争の作り方"を見ているかのような感覚に陥る。ハンスがなぜ牧羊犬を殺したのか、ファーミンがなぜエルシーを誘拐したのか、エルシーがなぜ白痴の青年を誘惑して協力させたのか、誰もが対話を拒んだからこその顔面クローズアップであるというのが非常に上手い。

ラストのモンタージュは特に素晴らしい。燃える扉、それを開けようと叩くファーミン、恐れ慄くエルシーの顔、疾走するジャンヌの顔、急いで村に戻る住民たち。これらが交互に配された上で、ファーミンが扉を叩く音が死へのカウントダウンのように、或いは鼓動のように一定の間隔で鳴り響き、やがて死を覚悟してそれを止める。エルシーの"許して…"をファーミンが受け止めるのは、彼が彼女を愛しているからなんだが、二人(ハンスも入れて三人)が残した遺恨は大きすぎるぞ…と心配になるなどした。

• #2021ofOdessa

過去鑑賞作品

＠有楽町朝日ホール
東京フィルメックス
映画大国スイス 1920’s-1940’s

ああ、これぞ前衛なるかな。
異言語が異思想を生み、その対立が破滅を導くという図式にどんどん引き込まれていった。