近本光司

洲崎パラダイス 赤信号の近本光司のレビュー・感想・評価

洲崎パラダイス 赤信号(1956年製作の映画)
4.0
かつての海岸線を示す川に架けられた橋に、「洲崎パラダイス」というネオンの文字が掲出された大きな門が聳え立つ。日夜その門を通っていくのは、遊郭で身を売る女たちであり、その女たちを銭で買う男たちであり、東京湾を埋め立てるための土を運ぶ夥しいトラックである。この映画は、売春防止法が制定され、まもなく赤線地帯が消滅しようとする頃に、勝鬨橋から「天国」の入口に逢着した男女の話。いまだ戦後の動乱のうちにあって、不景気に喘ぐ1950年代半ばの東京の風景が克明に捉えられている。その一方、遊郭内部の模様は描かれず、カメラは徹底してその一歩外側に構えられ、川島雄三のもつ軽やかなテンポで二人を中心としたメロドラマが綴られてゆく。
 チャンバラに興じる子どもたちが落とした木刀が洲崎川を流れてゆく。そのさまを見つめる蕎麦屋「だまされや」女中の哀愁。最後のシーンで再び勝鬨橋に戻って途方に暮れる新珠三千代と三上達也だけではない。洲崎遊郭が閉鎖され、青線になったあと、あの一帯を追い出された人たちはみな、いったいどこに向かったのだろう。