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この天の虹のtunicのレビュー・感想・評価

この天の虹(1958年製作の映画)
5.0
冒頭15分はまるで英映画社が製作した八幡製鉄所のPR映画のよう。用途にあわせて板状や線状の様々な鉄材が作られていく流れを紹介。そこにコンベアを見守る笠智衆やら、なにやらレバーで操作する織田政雄やらいつものメンツが作業員として顔をみせる。川津祐介の追悼としてみたはずなのに思わぬ製鉄賛歌にぐっと引き込まれてしまった。いろいろな映画で若い娘をたぶらかしたり図々しく立ち回ることが多い川津さんだがデビュー作はかなり初々しく濡れ子犬度が高い。というか木下先生の作品ではいつも心の弱いナイーブな青年として描かれているような気がする。ちょっと捻くれていたり優しかったりするのはその弱さのあらわれでしかなくて。本作では先輩作業員の高橋貞二を慕うあまり、お見合いを断ってきた久我ちゃんに抗議したりと前のめりなところをみせる。たんに若くてピュアだからってことではない。蒸し蒸しとした寮で腐っている貞二をうちわで扇いでやったり、田舎者の貞二が好きだというライスカレーにソースをじゃぶじゃぶかけるやり方で食べてみたり。タイトルの虹とは八幡の街に立ち昇る七色の煙をさすのだけれど、いやこれは別の意味の虹なのでは…とかついつい思ってしまった。あ~木下先生ってばほんと最高。
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