尿道流れ者

ゆれるの尿道流れ者のレビュー・感想・評価

ゆれる(2006年製作の映画)
4.0
余韻の残る映画というのは特別なもので、胸に引っかかる何かがあり、単純な印象だけでは整理がつかずに無駄な考察をつらつら並べたくなるのは、映画の凄みにしてやられているからで、この映画もそんな特別な映画。

兄と弟と一人の女。この女の死が問題となり、兄弟は今までとは違ってしまう。弟が遠目に見ていたゆれる橋の上で、兄ともつれ合った女が転落し川の中に消えていく。そして兄弟が壊れ出す。女の転落が観ている側の想像力で補う必要があるほど省略された描写でされているのがとても印象的で、そのせいで目の前で転落された兄の気持ちを、真実が分からないままに想像を強いられ、そのせいで兄と同様の混乱を覚えてしまう。

話はそこからで、その転落死は事故なのか殺人なのかという問題になる。兄は殺人だと自白し、弟は兄を信じて無罪だと主張する。しかし、弟は兄と話しをするなかで兄の豹変したとも捉えられる別の顔を見てしまい、ゆれてしまう。

知らぬまに付けてしまった傷、隠されていた妬み、それらが表面化する様子は恐ろしく、サスペンスとしての面白さも凄い。真実が二転三転する様は黒澤明の羅生門のよう。

香川照之の演技が凄まじく、良い顔をずっとしてる。法廷での怯えた噛み噛みの演技や豹変した時のガラッと変わる表情など本当に凄い人。

橋の上で起こった事件、高さや危険に怯えず渡っていってしまった弟と渡らずにとどまろうとした兄。これが二人の生き方の象徴で、川に隔たれた二人の間には大きな壁がある。ラストシーンでは二人は国道を挟んでいて、また隔たりがあるが、車の波にかき消されないように叫んだ弟の声は届いた。