いろどり

モーターサイクル・ダイアリーズのいろどりのレビュー・感想・評価

5.0
これは大好きな映画で、公開後まもなく鑑賞してから数年は、人からおすすめの映画を聞かれたときにこれを答えていたことが多かった。00年代の心の恋人だったと言っても過言ではないガエル・ガルシア・ベルナルの良作、配信されないかとずっと待っていたけどこの度、きれいな中古に出会ったためDVDを購入した。

ゲバラが亡くなった後に発見された旅行記をロバート・レッドフォードが製作総指揮を取り、ブラジル人監督ウォルター・サレスが南米人の誇りを持って丁寧に映画化している。英雄になる前の、エルネスト・ゲバラがなぜチェ・ゲバラになったのかを、ブエノスアイレスから始まるバイクの旅により情熱的かつ政治的に描いている。盟友アルベルト・グラナード役の俳優は、ゲバラのはとこらしい。南米の壮大な自然は美しく、南米の人たちの人情にも触れられ、ロードムービーとしても青春ムービーとしても楽しめる。

チリの銅山会社、アタカマ砂漠で会った共産主義者、ペルーの血塗られたインディオの歴史、ハンセン病患者との交流など、南米の深刻な搾取や貧困、差別、汚職を目の当たりにすることで、住む場所を奪われた人々の健康や幸せに興味を持ち始める様子が偏りなく描かれていて、のちのゲバラの原点が垣間見える。

当時、人権を無視されていたハンセン病患者に積極的に話しかけ、素手で触れ、ハグし、人として扱う姿こそ、本来のゲバラなのだろう。あらゆるものを受け入れて吸収し、自分のものにしていく若く賢いゲバラの純粋性を感じられる。

チリに入ったときゲバラがグラナードに、「歳を取ったら湖のほとりに小さな診療所をたてよう。治療にきた人は全員診る。」とキラキラした瞳で話すシーンがあるけれど、キューバ革命後、ボリビアでの革命に失敗し39歳で暗殺された歴史を思い悲しい気持ちになった。

ウルグアイ人の音楽家、ホルヘ・ドレクスレルの主題歌はアカデミー賞歌曲賞を受賞しているけど、エンドロールで歌詞の字幕がないのは残念な点である。

ガエル・ガルシア・ベルナルの尊敬する人は元々、ゲバラだという。ハリウッドで活躍するようになっても今現在までメキシコに住み、ときに反米的な発言もしている。ゲバラに思想的にも共鳴できるからこそ、内面の変化の表現に深みが出ていたのだろうし、この作品以外でもゲバラ役を演じているのだろう。それにこの当時のガエルは俳優としても男性としても脂が乗ってきていて、ハンサムでセクシーな魅力にあふれている。ちょうどナタリー・ポートマンと付き合っていたころのように思う。

どこの国でもゲバラの撮影だというと、誰もが優先させてくれたという。南米大陸の人たちを愛し、国境を越えて南米大陸統一を目指した理想主義者だったからこそ、今も人々から愛され続けているのだと感じる。決して傑作ではなく良作であり、映画としても俳優の演技にしても青臭さがあるところが逆にこの作品の魅力になっている。その青臭さに、偉大な革命家が誕生する前の未熟な熱い心が重なるところこそ最も愛すべき点であるといえる。
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