よどるふ

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人のよどるふのレビュー・感想・評価

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吹き替え版でシリーズを第1作目から観直していると、ハリー役であるダニエル・ラドクリフの身体的成長に加え、吹き替えを務める小野賢章さんの声変わりに類まれなるドキュメント性を備えた冒頭に気分が高まる。続く序盤は、両親を侮辱されて激昂し、魔法を使うハリーの態度から年相応の成長を感じる部分。そこからダーズリー家を飛び出し、夜の広い住宅街で佇むハリーを引き気味で捉えた画は、前2作からは感じなかったホグワーツ魔法学校の周辺にある雄大な自然を風景として美しく見せる本作の画作りを早々に予告している。

前2作にはエピソードの締めとして「事件を引き起こした人物の討伐」という、ゲームで例えるなら「ステージのボスを倒す」的な展開が用意されていたが、本作のクライマックスにはそれとは異なる話の盛り上げ方がなされている。そこに至る助走のパートは、シリーズを観ている人に向けたミスディレクションを上手く活用しながら、怒涛の勢いで重ねられていくツイストがあって気持ちがいい。そこから続くファンタジー、ミステリとは異なるジャンルを導入したクライマックスには、そのジャンルに触れてこなかったような人(それこそ幼い観客)に向けたセンス・オブ・ワンダーに溢れた面白さがある。

クライマックスの展開を象徴する美術の作り込みと、それを強調するカメラワークおよび音楽の相乗効果による素晴らしさ。ここは映像作品としてのダイナミックさが前2作よりも上がっている部分だろう。要所でホラー的な緊張感を醸し出しているところも前作にはない要素だ。本作のキーキャラクターであるディメンターが現れる際の“周囲が凍っていく”描写は、“不穏な予兆”の描き方として雰囲気は十分。細かなところでいえば、ハグリッドの初授業に参加する生徒たちがみな制服を着崩しているところが良い。こういう部分もシリーズを重ねないと見られない良さのひとつだ。
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