半兵衛

ライアンの娘の半兵衛のレビュー・感想・評価

ライアンの娘(1970年製作の映画)
4.2
お話は単なる不倫ものなのに、美しく豊穣な映像によって文芸映画としての風格が画面からひしひしと感じられて3時間という長尺なのに一級の芸術品を堪能しているような気分で本編を鑑賞することが出来た。

それに加えてデヴィッド・リーン監督による『アラビアのロレンス』や『ドクトル・ジバゴ』で培われた歴史のなかに生きる登場人物たちの心情を丁寧に描く演出術も随所で光っている。育った環境も年齢も違う男女がふとしたことで夫婦となるも、ギャップからすれ違いが生じて不満の募った若き妻が舞台となる島にやってきた軍人に心ひかれていくというよくある展開がそれぞれのバックボーンを丹念に描くことで超一流の人間ドラマへと昇華させているのが流石。

そして役者ではメインよりも障がい者を全身全霊で時にはユーモアを交えて演じる名優ジョン・ミルズに心打たれる、作品や主役、監督を差し置いて撮影や助演のジョンがアカデミー賞を獲得したのも納得。あとデビュー当時はハードボイルドやアクションもので活躍して60年代以降はヨーロッパの作品にも出演してきたミッチャムが、この作品では自分の男性的なキャラクターをかなぐり捨てて別の男に妻を奪われる寝とられ男を中年の哀愁を醸し出しながら演じているのが役者としての成長を感じさせる。

でもそんな美しい丹念な時間に包まれた映画のなかで一番のインパクトがサラ・マイルズのおっぱいの美しさだという自分のスケベ根性がちょっと恥ずかしい。

あと吹き荒れる大海の崖で何十人と集まった老若男女の大群衆に、海に散らばった荷物を回収させるという危険なシーンをガチでやらせたリーン監督は本当に鬼畜としかいいようがない。
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