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東京物語のnobiiitaのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.8
かつて、大切なものは“家”だった。
いまほどに“家族の絆”が重要視される前の、家族の有り様が変化してゆくさまを昭和という時代性や文化とともに残酷にも丁寧に描く名作。今更ながら初見。

笠智衆の「ありがとう」の声がいつまでも耳に残る。

孫よりもやっぱり子どもがかわいいと話しながらも寂しさをのぞかせて、それでも「私たちはまあいいほうかねえ」「まあいいどころではないですよ、とても幸せですよ」と現実を肯定しようと話すふたりに、私自身の両親が重なり涙を堪えられなかった。


観る年齢や状況によって響きかたが違うんだろうな。いま初めて観られてよかったのかもしれない。

実の息子たちの振る舞いに客観的に腹がたち、一方で、それぞれの生活があることも理解できてしまう。簡単には長距離を移動できない時代性もあるのだろうと思いつつも。


まるで自分に言い聞かせるように京子ちゃんに対して「大人はいずれみなそうなるのよ」と話しながら、「毎日何か起きないかと期待してしまっている」と義父に心のうちを吐露する紀子さんの気持ちが切なかった。

やはり笠智衆。
息子に「朝まで持つかわからない」と言われ、眠る妻のそばに腰をおろしたとき涙をこらえる喉の動き、「ひとりになると一日が長くてなぁ」という横顔と背中、すべての表現が直接胸に迫った。
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