湯っ子

東京物語の湯っ子のレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.0
小津作品は、昔、お正月のテレビでチラ見したくらい。まともに観るのは初めて。

私が好きなのは長女を演じた杉村春子。
この時代の感覚からすると、年老いた両親に冷たい薄情な娘として描かれているのかな?
でもこういう人がいないと、色々うまく回らないよ〜。そして、彼女の言うことは大体正しい。
それに、多少疎ましく思いつつ、それなりにお父さんお母さんを気遣う姿勢は見せてるじゃないか。
東京へ子供達を頼ってやってきた老親を、自分の都合のために熱海へ行かせる(お金は出す)→遠方の危篤の母を訪ねるのに喪服を持参→母が亡くなって、さっきまで泣いていたのに、もう喪服の話→お葬式が終わったら、もう片見分けの話…
ちょっと笑っちゃうくらいなんだけど、「お母さんよりお父さん先の方が良かったわね」という爆弾発言!それ言っちゃう⁉︎
「お母さんよりお父さんの方が…」発言についてはちょっと置いといて、みんなが思ってるけど言えないことを長女があっけらかんと口に出してくれるから、まわりの者が助かってる部分ってあると思うなあ。
涙を流して悲しむ気持ちも本物だし、お葬式どうしよう、自分のやってるお店のことはどうしよう、お母さんあの帯留め私にくれるって言ってたな、って思う気持ちも本物だと思う。

「永遠の処女」と謳われた原節子。
私は10代の頃初めて彼女を見て、そのキャッチフレーズはピンとこなかった。
美しい人だとは思ったが、ハーフみたいな顔立ちにすらりとしたスタイル。
「永遠の処女」と聞くと、私のイメージではすずらんのような可憐な女性を連想するが、原節子のイメージはダリア。真っ直ぐに天に向かって背を伸ばし、大輪の花を咲かせる。彼女が笑うたび、花がぱあっと開くみたいだった。

原節子演じる紀子は、死んだ息子の嫁。夫が死んで8年経ってもひとりで暮らし、仕事に就いている。
最初は、これは世の中のおじいちゃんの夢を具現化した女性なのか…?美しく健気で優しく甲斐甲斐しく世話をしてくれる未亡人…と、想像上の生き物みたいに思って観ていた。
それが決壊する、思いもよらないタイミングで。
ここで私の心は震えた。
彼女はいろいろなことを全部わかった上で、余計なことは何も言わず、自分を抑えていたんだ。
それまでの静かで穏やかな時間を重ねたからこそ、この場面が観ている者の心を動かすのだろうと思った。

老夫婦を演じる笠智衆はお坊さんみたい。東山千栄子はおたふくみたい。見ているだけで優しい、穏やかな気持ちになれる。

笠智衆演じるお父さんが久しぶりの友達と飲みに行った時、子供の冷たさやら、子供の出来がイマイチだという話で盛り上がっている時、その友達が、
「いやあ、われわれはまだましですよ。今時は親を殺す子供もいるくらいですからね。」というセリフを言っていたんだけど、私が勤めているデイサービスの利用者さん(80代)がついこの間言っていたセリフとまっったく同じで笑った。

時代が違うので、もちろん現代の感覚と違うところはたくさんあるけど、家族ってそう変わらないなと思った。
この映画に影響を受けた作品はたくさんあるらしい。そんな作品と比較してみたら、また新しい発見があるんじゃないかと思う。
湯っ子

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