レインウォッチャー

Mr.&Mrs. スミスのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

Mr.&Mrs. スミス(2005年製作の映画)
3.5
単なるスター鑑賞ムービーと侮るなかれ。

冒頭30分、起承転結における「起」の手際が見事だ。
もしも殺し屋どうしがお互い隠したままの夫婦だったら、というなんともノリ一発で荒唐無稽な設定を、適切&豪快な取捨選択でスピード感とともに語って飲み込ませてみせる。ブラピとアンジーそれぞれ別の状況をほぼ平等に時間を割きながら、もちろんきっちり笑いもとりつつ説明し、ちょっとした行動やアイテム等々からちゃんと性格の違いや関係性の変化なんかも伝わってくるのがにくい。
(たとえば細かいけれど、歯磨きのシーンって平和・場合によりロマンティックにもなり得るところ、ひとたび電動歯ブラシになると一気に倦怠期感が演出される気がしたり、とか)

正直そのあとはいかにもアメリカーンでオッシャレーに進んでいくのみなのだけれど、この素晴らしい「起」があるから勢いでそのまま観れてしまう。ちゃんとお金もかかっている(豪邸も高級車も当然のごとく爆破)し、なにより二人のスター性がしっかり画面を支える。アンジェリーナ・ジョリー、この頃はほっぺに適量のお肉が乗っていて、まだ(そんなに)怖くない。ベスト角度の見返り美人ショットが頻繁に映えている。

笑いどころの源泉になっている「殺し屋夫婦大喜利」はネタが尽きず、その納得感に感心してしまったりもする。
・武器を隠す場所はそれぞれの聖域(男はガレージ、女はキッチン)
・外で浮気してきたように見えて殺しの証跡
・過去に殺した人数=過去の交際経験人数みたいに思える
などなど。

他にも要所でくどいほど打ち出されるダブルミーニング的な演出がオッシャレーな雰囲気を形成していて、それはそのまま二重生活というこのストーリーの屋台骨を想起させつつ非言語のメッセージを伝える「時短」にもなっている気がする。序盤・出会いのダンスシーンと終盤クライマックスのコンビアクションシーンでは同じBGM(ジョー・ストラマーのMondo Bongo)が流れ、円環構造が閉じて真の夫婦へ、という徹底ぶりだ。

派手な見た目とは裏腹に、様々な荷物を熟考の末に捨て軽量化し、気軽に観れるよう仕立て上げてしまった匠の作ではないかと思う。こういう添加物多そうな映画をふだん敬遠している方も、ぜひ冒頭30分の起パートは観てみてほしい。

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オッシャレー会話で個人的に一番好きだったのは、ブラピがポーカーの場でラッキーという名の男を始末した後の場面。帰宅してから、アンジーに「どうだったの?」ときかれてこう答える。

- I got LUCKY.(ツイてたよ。=ラッキーを殺ったよ。)

ちなみにこの場合、大阪において適切なツッコミは「やかましいわ」である。