ろくすそるす

獣兵衛忍風帖のろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

獣兵衛忍風帖(1993年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 奇想の忍術によるエロスとヴァイオレンスの絵巻物。山田風太郎の世界観を鬼才監督が見事に描ききったアニメーション映画の大傑作。
 菊地秀行の原作の映像化作品『妖獣都市』の陰影味溢れる世界観。そして、あの淫美な蜘蛛女の冷ややかな恐ろしさ。オムニバス映画『迷宮物語』の「走る男」での迫力のあるハードボイルドな劇画調。青や赤を基調としたクールで危険な香りのする色彩感覚を持つ川尻監督の作る世界が風太郎作品とかっちりと符合している。
 物語は、徳川家の家老・榊兵部が「甲賀組」に篠田村での謎の疫病事件を探るように指示する。しかし、奇妙な戦術を使う謎の忍によって「くノ一」の陽炎一人を残して、皆殺しにされてしまう。
 丁度そこに諸国を行脚する浪人・牙神獣兵衛がやってくる。彼は風を操るかまいたちのような剣術を持つ超人的な剣士だ。
 その男を利用するのが、抜け目無い公儀隠密の老人濁庵。彼は汚い手を使って、倒幕を企む悪の組織「闇公方」の暗躍を止めるべく、獣兵衛を戦闘へと巻き込んでしまう。
 こうして、陽炎、濁庵、獣兵衛の三人と「鬼門八人衆」なる最凶忍軍団との死闘が火蓋が切って落とされる。

 なんといっても、風太郎作品の醍醐味なのが、奇術を操るキャラクターたちの魅力であろう。
 巨大なブーメラン剣を駆使し身体を石化させる大男の鉄斎、全身の刺青から蛇を出現させる蛇女の紅里、蜂の巣と化した背中から蜂軍団を指揮して襲撃させる虫蔵、僅かな微音をもキャッチし光の目眩ましを使って目開きを斬り殺す盲目の剣士・現夢十郎、あらゆる陰に偏在し幻影で惑わすシジマ、ピアノ線のような細い糸を操る天草四郎似の美青年の百合丸、人体をザクロのごとく破裂させる爆弾女・石榴、そして彼らを束ねる、肉体再生による不死身の頭領・氷室弦馬。
 バトルシーンでのぬるい演出は、微塵もない。腕や首が吹っ飛び、鮮血が飛び散る様は痛快である。
 特に、最終決戦となる燃え盛る船の上でのバトルは、やはり風太郎原作の『魔界転生』のオマージュであると思うが、非常に見応えがある。また、敵キャラクターの気の利いた死に方も、丁寧に作り込まれていて感慨深い。

 そして、男を決して抱けぬ毒の身体を持つ陽炎と獣兵衛との果たせなかった悲恋も儚く、切ない。
 後に現れる『SHINOBI』が見るに忍びない、とんだ駄作であったのに対して、これほどまでに風太郎の面白味をちゃんと生かしてくれた川尻監督に敬意を表したい。