バナバナ

活きるのバナバナのレビュー・感想・評価

活きる(1994年製作の映画)
3.5
1940年から、文化大革命中の1960年代までを描く、地主から没落した男の一代記。原作があるのだそう。
コン・リーも出ているが、主演は中国の喜劇スターだというグォ・ヨウ。コン・リーはその妻役。

福貴は大地主の息子だったが賭博に明け暮れ、負け続けて、屋敷や財産を他人に獲られてしまう。
その後は貧乏長屋で細々と暮らしていたが、ようやく賭け事を辞めたという事で、実家に帰っていた妻が戻ってきてくれる。
心を入れ替えた福貴は元々芸事が大好きだったので、影絵芝居の道具を借り、妻子を町に残して仲間と地方へ巡業に行くが、時は国共内戦時代。
富貴は巡業先の田舎で無理やり国民党軍に入隊させられてしまう。
しかし共産党軍が巻き返してくると、上手いこと共産軍に入ることが出来、なんとか生き延びて町に帰ってきて、妻子と再会する。

富貴は没落したお陰で、共産党政権の人民裁判で銃殺されずに済む。
この時代に地主や裕福だった人は、共産党に捕まって銃殺されたり、香港やマレーシアに身一つで逃げたというが、
奥さんも地主に嫁ぐくらいだから実家も裕福だったと思うのだが、安堵こそすれ、実家の一族への心配などは全く描かれてはいない。
町に戻った富貴は妻とお湯を配る、という仕事をするのだが、この仕事、なんと60年代になってもやっているのだ。

文化大革命が始まるとベテラン医師は皆排斥され、病院に残っているのは青二才の看護学生ばかりで偉そうに振る舞っていたが、まるでカンボジアのポルポトの少年兵の様だ。
影絵芝居で一緒にドサ回りをしていた春生は、自動車を運転してみたいとそのまま共産軍に残り、その後区長にまで出世していたが、
文化大革命の時代になると、この春生や、富貴夫婦によくしてくれた町内会長さんまでもが“走資派”として、下放政策で辺境の地に飛ばされていく。

『ワイルドスワン』という、今はフランスの国籍を獲っている作者のノンフィクションを読むと、文化大革命時代は本当に食べる物が無く、水に発生した藻までも食べていたと書いていたので、あの様に大きな饅頭が街頭で売られていたのかは疑問だが、
ベテラン医師が病院を首にされて飲まず食わずの状態だったり、ちょっとでも役職に就いていた人は、妬まれると下放政策で飛ばされていた時代に、
この元地主の夫婦は、今は何も持たない為、そんな危険な目に遭うことはない。

きっとお湯配りは、共産党の中でも最下層の仕事だとは思うのだが、毛沢東時代はみんな貧しく、人民服を着て、食事も町内で集団給食みたいな感じなので、この夫婦は何も劣等感は感じていない。
それどころか、文化大革命時も持たざる者であったため、誰からも妬まれずに穏便に暮らしているのだ。

人並みの苦労や不幸も描かれてはいたが、優しい娘婿や孫に囲まれ、なんだか『人間万事塞翁が馬』を物語にした様な話だったな、と思いました。
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