SANKOU

西部戦線異状なしのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

西部戦線異状なし(1930年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

戦うことは美徳だと扇動され、祖国のために戦う英雄を夢見て戦争に志願した多くの若者たち。
戦争がいかに無情なものか、そして人の心を壊すものかを痛烈に描いた作品だった。
郵便配達員だった男が軍曹に任命された途端に、態度が豹変し権力を振りかざす姿はあまりにも滑稽。
しかしこんな小心者が戦場では大威張りでのさばっていたりしたのだろう。
戦場を知らずに意気揚々と軍服に身をつつみ、訓練に励んだ学生たちが、実際の戦場を前にして恐怖に侵されていく様はとてもリアルに感じられた。
彼らは何のために戦争をしているのかも分かっていない。
ただ祖国のために戦うことが名誉なことだと刷り込まれて戦場に来てしまった。その代償はとても大きかった。
塹壕の中で爆撃に耐えるだけの日々。一度戦闘が始まれば生きて帰れるかは全く分からない。
ポールが爆撃を避けて掘った穴の中で、思わずフランス兵を刺し殺してしまうシーンは印象的だった。
例え国同士が始めた戦争で敵兵と殺し合うことになったとしても、個人的な恨みがあるわけではない。敵にも家族があり、そして人生があった。
半ば狂乱状態になって負傷したフランス兵を介護しようとしたかと思えば、早く死んでくれと罵倒するポールの姿が痛ましい。
戦場で死線をくぐり抜ければ確かに精神的に強くなることもあると思う。
しかしそれは日常とは乖離したたくましさだ。
ポールが休暇で故郷の町に帰ってみると、相変わらず学校の教授は学生たちを扇動し続けている。
ポールが戦場のリアルを語っても学生からは臆病者と罵られてしまう。
金持ちの老人たちは地図を広げて好き勝手に戦争についての議論を戦わせている。
誰もが戦場で行われていることを想像しようともしていない。
どれだけの大義名分を振りかざしても、戦場で行われているのは醜い殺し合いだ。
最後までこの映画で描かれるのは不毛な戦場の姿だ。人の命が簡単に失われていく戦場。
塹壕の外で羽を拡げる蝶に触れようとして、敵兵に狙撃されてしまうポールの最期はあまりにも悲惨だ。
この時代にこれだけの臨場感ある戦場の姿を描き、反戦思想を持った映画は他にないと思う。
しかしこの映画が人々にたくさんの教訓を与えたにも関わらず第二次世界大戦は防ぐことが出来なかったのは非常に悲しい現実だ。
壁に張られた女性のポスターに向かって紳士的に振る舞うポールとアルバートの姿など、悲惨さの中にも心が暖まるシーンも多かった。
それだけに観終わった後に残る悲しみの余韻が深かった。
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