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幻の光のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

幻の光(1995年製作の映画)
3.7
是枝監督の長編デビュー作。江角マキコ主演と主題の喪失と再生の前情報だけで鑑賞。重苦しく、前半で二度ばかり止めました。一回目は夫の死、二回目は舞台が奥能登だとわかったとき。躊躇しましたが、観てよかったと思いました。死を弔うまでの静謐な物語でした。磯で砕ける波の音がいつまでも余韻として残りました。

すでに、この景色が幻であるという先入観をもってしまったので、全編に渡って喪失感を表したブルーグレーが哀しかったです。色味があったのは、亡くなった夫の緑色の自転車と、自転車のキーホルダーの水色の鈴、鬼百合の橙、ラスト近くの炎しか記憶にありません。

豪快なイメージの江角マキコさんが口数少なく、いつも黒い服をまとっていると、それだけで重みがあります。

日本海の荒波を背景にした引きの構図で、長身のシルエットが生きていました。

辻仁成の「千年旅人」も奥能登が舞台で、「ゴンドラ」は青森の仏ヶ浦、どちらも荒々しい波の音が魂を癒していました。「ユリイカ」でも、海に浸ることが魂の再生を意味していました。

波の音が心のリズムを整え、暗闇から光を探し、魂は居場所に戻る。海辺の野辺の送りのシーンは抗えない自然の力と聖なる光を感じました。タイトルの<幻の光>と対になっていたように思えます。

舞台の漁村とその地の方々のことを思うと、辛さが募りました。
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