ヘソの曲り角

幻の光のヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

幻の光(1995年製作の映画)
4.5
5月末で初期是枝作品がU-NEXT配信終了っぽいので見てみた。是枝監督の映画は初めて。

いやーすごい。これ長編劇映画デビューなのやばいでしょ。110分常時画がバッキバキにキマってる。基本カメラは固定で直系の小津フォロワーって感じの作り。「東京兄妹」「トキワ荘の青春」の頃の市川準っぽさもある(てか時期ほぼ同じ)。本作から三宅唱も思い出した。画作り以外にも環境音、ロケーションの活かし方に類似を感じた。

キャストがかなりいい。江角マキコマジですごい。正直ショムニとかのガチャガチャしたドラマコメディエンヌの印象しかなかったから静かに佇まいがよくてビビった。内藤剛志も最近のテレ朝刑事ドラマしか知らなかったからうますぎて驚いた。主人公の子ども役のふたりも抜群にいい。ほぼカメオ出演の大杉漣と寺田農もさすがの存在感。あとやっぱ柄本明がいることでビシッと締まる。赤井英和もあんま知らなかったけどよかったなぁ。そして何よりも女性の役者さんが尽くいい。大阪にいた頃の大家さん、江角の母親、輪島に行ってからの漁やってるばあちゃんとか街で会う人たちとかみんないい。

宮本輝原作には「泥の河」という傑作があるが本作も似た空気が流れていたように思う。内容自体は身近な人が突然いなくなってしまうこととどう向き合うかというわりあいよくある題材なのだが感情の推移の描き出し方が巧みだったように思う。中盤の輪島に移ってから淡々と続く明るい生活の中に、例えば再婚相手の連れ子にいってらっしゃいと声をかける場面が大阪時代に夫を送り出す場面をふと思い出させるような不意に喪失をもろに喰らってしまう一瞬が時々ある。それが時間が経過するほど多くなって江角は「前の夫がなんで死んだのか」という答えの無い問いから離れられなくなる。それには冒頭の回想(夢)で描かれる祖母や大しけの日に漁に行ってなかなか帰ってこないばあちゃんなど繰り返される"家を出て帰ってこなかった(こないかもしれない)人"の影響が強くある。最後内藤剛志との会話の後ずっと黒か紺だった江角の衣装が白になることから前を向いたのは明確だがその会話でタイトル回収されるのは意外だった。

気になる点があるとすれば、クライマックスで葬列が通るシーンで謎に雪のCGが入るところかな。あと是枝が指摘されがちかと思うあざとさや画を見せたがりすぎたときのワンショットの徒な長さなどそれが許容できない人は普通にいると思う。私も本来そっち側のはずなんだけどなぜだか今回は嫌じゃなかった。ショットが長すぎるのは分かるんだけどねぇ。デビュー作の粗削り感として許容できたのかも。