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幻の光のmochiのレビュー・感想・評価

幻の光(1995年製作の映画)
4.0
是枝監督の映画は「そして父になる」に続いて2作品目の鑑賞。元々本作は是枝監督の映画として知る前に、ジャケットを見て良さげだと感じて、みようと思っていた映画である。正直言って是枝監督の映画にあまり良い印象はないのだが、映画が好きと言っておいてみていないのとなんだし、何より観ずに批判するのは好ましい態度ではないので、これから観ていきたいと思っている所存です。本作を足がかりにできたら、と思ってます。
個人的には結構好きな映画で、テーマも面白いと思う。是枝監督の映画は家族をテーマにしたものが多いと思いますが、私も家族というテーマは大好きです。ただ、「そして父になる」はそこで描かれるものが、あまり好きではなく、好きなテーマに対してあまり好みではない描写が存在する、ということになってしまって、そこから是枝監督を敬遠するようになったという経緯があります。本作は「そして父になる」に比べ、ただ配置がある、という仕方での撮り方になっていて、この点はとっても面白いと思う。
あと、画がとっても強い。全部のシーンの画が良い、という感じではないが、すごく印象に残る画があって、その部分を際立たせるために、他のシーンも必要だと思わせてくれる、というのが本作の魅力かと。海辺のシーンはとっても良いし、子供二人が駆け回っているところもものすごい。石川県の海がとにかくやばい。石川の家に車で戻ってくるシーンは、どのシーンも印象的である。またこうした外のシーンだけでなく、主人公が嘘つき、と糾弾するシーンの画もとっても印象的で、単なる背景の強さに吸収されていない点も高評価ポイントかと。あと、徹底して登場人物によらない、という手法もとても面白い。絶対一般的にいったら表情を映したくなるシーンを、ずーっと遠くから撮り続ける、というのが禁欲的で良い。結局人間の中身なんて、人間を観察して推測することしかできないわけだが、このリアリティを映画に持ち込むことができている、という意味でこの手法は素晴らしいと言える(逆に言えば、ズームで表情を取る、という行為は、その人物の感情の推測を現実よりも容易にしうる、という点において、リアリティの減退を引き起こしうる)。こちらはあくまで彼らの世界に入れない第三者である、ということを強く意識されるとともに、その意識によって、彼らの感情や思考について、知りたい、推測したい、という好奇心を抱かせている。これは映画の撮り方だけでなく、プロットにも言えることだが、概してこういう映画は最後に激烈な感情の表出を持ってきがちであるが、この映画はそうしたものがないまま終わる。一方で、最後のシーンの主人公の服装および、1番の理解者としてのポジションを割り当てられた存在者との会話によって、おそらく平穏では他から見れば明るい未来が示唆されて終わる、という終わり方も秀逸と言える。
一方で、素晴らしいシーンのためにそれぞれのシーンが存在する、ということの素晴らしさは理解できるが、全体として何かもう一息足りない。85点の映画ではあるが、90点には何か足りない、と思わされた。
トンネルのシーンはおそらくタルコフスキーの「ストーカー」のオマージュであり、海岸のシーンの前の行列はおそらくベルイマンの「第七の封印」のオマージュだと思う。また、石川の家の階段などでよくみられた、場所を中心に撮る技法は溝口を思い起こさせる。あと、この頃から音楽は日本的なものが使われていて、外国の人から評価を受ける要素の一つは、この時から存在したのだなぁと思わされた。
プロットについては、最も秀逸なのはやはり、蟹を取る方が生きて帰ってくる、という点であろう。もし彼女が帰ってこなければ、主人公の中で、「長い時間帰ってこない人物」イコール「死んだ人物」という法則が成り立つのであるが、彼女はこの帰納的法則を破壊したのである。そしてそのあと、夫が「彼女は結局生きている、死ぬはずがない」というような発言をする。すると、最初の二人は、死ぬはずがない人間ではなかったことになる。法則を破った存在者がいる、という事実が、最初の二人とその存在者の違いはなんであろうか、という疑問を主人公に抱かせるのである。つまり、こう言える。長い時間帰ってこない人物イコール死んだ人物、という法則が主人公に、最初の二人の死を納得させていた。だが、この法則を破る存在者が出てきた。すると、前者二人とこの後者の区別は一体どこにあるのか、という問いが生じる。この問いを強調する事実は、最後の一人の方が、前者二人に比べ、危機的状況にあったという事実である。より危機的状況にあり、法則にも乗っていた存在者が生き残ったのはなぜか、という問いはすなわち、なぜ危機的状況ではなかった存在者が死んだのか、という問いとある意味で同一である。このことと、その前の尼崎に戻った際の経験が合わさって、主人公の夫への糾弾が導かれるのであり、そこから海辺のシーンへと持っていく流れには、滑らかな合理性がある。糾弾するシーンは、夫の糾弾に見せかけた自己の糾弾であり、この自己の糾弾には蟹を取る方の生存が深く関わっている。加えて、自殺の理由についても、理由らしい理由が与えられていないのも重要な点だと思うし、個人的には好みなところでした。
江角マキコさんすごい。そりゃ評価されるわ
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