TaiRa

ラルジャンのTaiRaのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
思えば最初に観たブレッソンこれだったな。当時も普通に楽しめた気がするし、観直して更に好きになった。

不良少年が小遣い少ないからと偽札を使った所から波紋が広がる様に悪意や不幸が伝染して行く。トルストイの原作中編『にせ利札』は二部構成で、ブレッソンが映画化したのは第一部のみ。第二部は改心した殺人者が善行を重ね聖人になって行き、善意や幸福が伝染して行くという、「回心」後のトルストイらしいキリスト教プロパガンダ小説。読んでないが。ドストエフスキー好きのブレッソンが人生の最後にトルストイを映画化するのも中々面白い。とは言え劇中で印象的に登場する斧なんかはトルストイが書いていたのか分からないので(ディティールはともかく話の流れは忠実とのこと)、もしかしたら『罪と罰』からの引用かもしれないな。老婆を殺める斧、と言えばそっちだろうし。ある意味ではブレッソンの集大成にも見える。金と犯罪を巡る話も、刑務所生活の話も、絶望についての話も大体やっている。不条理な世界の不気味さはそんじょそこらのホラー映画よりも恐ろしい。殺人を表現するいくつかの見せ方も素晴らしい。モンタージュの組み立てもかなり律儀というか教科書的とも言える。癖の強い監督ではあるが、実際は誰が見ても面白い映画を作っているのが稀有な存在。コーヒーとビンタ、カーチェイス、洗濯物を干す、杓子が地面を滑る、この辺が特に好き。
TaiRa

TaiRa