レッドアップル

ラルジャンのレッドアップルのネタバレレビュー・内容・結末

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

カフェの店員を突き飛ばす場面、ハリウッドでは”俳優の顔”のクローズアップが求められるが、ブレッソンは”モデルの手”をヨーロピアンビスタで余すことなく捉える。
もともと絵を描いていたブレッソンにとっては、きっとカラーになってからが彼の本領発揮なのだろう。カメラや照明、物や人の配置に加え、色の配置が新たな関係をもたらしている。刑務所では常に青(警官の制服、壁、手紙の文字等)が意識されるが、脱獄後に主人公の手を洗い流す水には印象的な赤が混じる。モンスターの誕生が示唆される。
彼と一瞬でも視線を合わせてしまったらもう手遅れ。『ヒメアノ〜ル』や『ディストラクションベイビーズ』に繋がる”ヤバいやつ描写”の元祖。その後の、老婆が帰宅する場面、画面左奥の方で主人公が老婆を追ってきている描写はほとんどホラー映画の構図。この映画は構図が本当に良い。干される洗濯物のあの絶妙な距離感!(刑務所の食事場面にも見られたあの意図!)
また老婆らを殺す場面では、軋むドアの音、犬の鳴き声などによって丁寧に不安を積み重ねていく。『ノーカントリー』のモーテルの場面を思い出した。
ビンタや殺人の場面、ブレッソンは頑なにその決定的瞬間を映そうとしない。創意に満ちた音に対する信頼。ペキンパーなどの表層的バイオレンス描写に懐疑的な身としては(それもまた彼の意図なのだろうが)、映さない強さに圧倒される。
みんな殺してやることやったら出頭しておしまい。遺作としても潔い。