Haruki

ラルジャンのHarukiのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
4.7
フランスの巨匠ロベール・ブレッソンの遺作。

小遣い欲しさに少年が偽札を使ったことから、巡り巡って展開する悲劇を描いている。

トルストイの原作は未読だが、当時のフランスの社会を鋭く反映させている。

きっかけとなる少年は決して貧しい家庭ではなく、むしろ裕福。
生活苦というわけではなく、単なる小遣い欲しさに偽札を使う。

そんなことのせいで、イヴォンは犯罪に加担して収監され、家族を失い、自殺未遂を図り、孤独と絶望に苛まれながら社会への怒りを増幅させていく。

単なる経済的格差にとどまらない社会の不条理が齎した、青年の心の破綻を恐ろしいまでにリアルに描いている。

終盤の婦人との同調と最後の凶行は読解が分かれそう。

大金を持つ姿を見て近づいたが、横暴な父親や妹夫婦の世話を献身的におこなう彼女の生活を見て、同情と親近感を抱いたのかもしれない。

そうなると最後の斧のシーンは、結局金に突き動かされてしまったのか、彼自身の自殺未遂のように婦人を解放しようとしたのか。
どっちの面もありそう。

多くを見せずに削ぎ落とされた画面で、緊迫感のあるストーリーを伝える、ブレッソンらしい演出は健在。
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