さいとぅおんぶりー

ラルジャンのさいとぅおんぶりーのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
5.0
裕福な少年がお小遣いの少なさから軽い気持ちで贋札に手を出し、それを受け取った善良な青年イヴォンの人生は「贋札」が引き金となって不条理がカオス理論のように連鎖してゆき、やがて世の中に絶望する事で大量殺戮に至る過程を淡々と冷徹に映した作品。

映画のタイトルでもあるラルジャンはフランス語で通貨を意味しており「神なる金よ、俺達に何をするなと?」同房者が吹聴した言葉は「金=神」図式となって彼の中で最後まで残ったよう見えました。
イヴォンは作中でも述べた様に決して金の用途に対して興味があった訳ではなく人々を動かす金という概念に狂わされたが故に金に執着する事になり、老婦人を殺める瞬間に「金=神はどこにある」と言い放ったセリフは彼が最後まで神に縋り付いてしまう自意識と神の否定の二律背反が行われた結果として出てきたように受け取りました。

優しくしてくれた老婦人を何故手にかけたのか?おそらく不条理に何もかも失ったが故に世の中に対する厭世観や絶望だけが彼を生かし、それ故に自己肯定される事を拒み救済の手を振り解いて斧を振り翳すほかなかったのではないかと解釈。

感情を徹底的に削いだ素人の演技・映像の反復・全体像を見せる事なく手足の所作だけで事の成り行きを想像させる演出・行為に対する過程の省略などブレッソン独自の映画文法がこれでもかと詰まってます。遺作であり集大成に相応しい名作。