ロシアの文豪トルストイの原作をもとに、名匠ロベール・ブレッソンが脚色、監督。同監督の遺作となった「ラルジャン」。名作です。
裕福な家庭の少年が小遣いほしさに友人と偽札を使ったことをきっかけに、巡り巡って罪もない一人の男が悲劇的な運命を辿ることになっていく、というお話し。
出演しているキャストは、いわゆる職業俳優ではないそうで、確かにセリフ自体にもほとんど抑揚がなく、感情というものが一切排されている感じ。また、劇中のBGMなどの効果音もほぼゼロ。主人公イヴォンが狂気に駆られて行う残虐なシーンでも、直接的な描写は一切なし。まさに極限まで「情緒」というものを削ぎ落した究極のミニマリズム。その徹底ぶりはストイックですらあります。
個人的には、役者さんの過剰な演技や効果的なBGMなどに対して、かえって興ざめさせられることも結構あるので、この手の無機質な作風は逆に刺激的でグイグイと惹き込まれるものがありました。素晴らしい。
ブレッソン監督の独特の演出技法が展開される「芸術性」の高い作品かもしれませんが、ストーリー自体に物語性がありますので、それだけでも十分に娯楽作品として楽しめる映画だと思います。
名作として語り継がれるだけある、まさに「芸術の秋」に鑑賞するにはピッタリの作品でした。