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戦場のメリークリスマスのpongo007のレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
5.0
 RIP坂本龍一教授,



戦争は何も生み出さない、破壊するのみ。戦争に勝ちも負けもない。すべての民間人は被害者、すべての兵隊は加害者であり被害者だ。日本がアジアの覇権を握ろうと暴走していた戦前、戦中。

 東南アジア戦線で、英国軍兵士のデビッド・ボウイが旧日本軍の捕虜となります。収容所を仕切っているのは坂本龍一、ビートたけしら。

 日本軍の指示命令に反抗的な連合軍兵士たち。両者はお互いの社会的バックボーンの違いから衝突を繰り返します。文化、宗教、人種…、お互いに異質な相手を理解できずにいます。

 しかし、ゆっくりとではありますが、両者の間に、奇妙な友情が芽生えてきます。戦争中でなかったら、彼らは本当にいい友達になれたと思います。しかし戦争という極限状態がそれを許しません。

 灼熱の太陽の下、お互いに疲弊し、精神的に崩壊していきます。彼らはどうやってお互いの気持ちに整理をつけていくのか、見入ってしまいました。

 終戦後、戦犯として英国の刑務所に収監されたビートたけしのもとを、収容所で通訳を務めていた元兵士が訪問します。「あなたを自由にして家族の元に帰してあげたい」という元兵士の言葉が優しくも悲しく聞こえます。

 たけしは「(戦争中)自分は周りの日本人がやっていたことと同じことをしていただけ」と独りごちます。二人で、戦争中、あるクリスマスの夜にたけしが酔っ払っていた思い出話をします。最後の別れです。

 たけしはその翌日に死刑が執行されるからです。別れの挨拶をし、独房を去ろうとする元兵士にたけしがすべての感情をこめて言葉を投げかけます。印象的な場面でした。

 監督は大島渚。この映画は戦争映画ですが、戦闘シーンはありません。異質な者同士が出会い、理解しようとするが、戦争によって悲劇を迎える話です。
RIP坂本龍一教授。寂しいです。

 なんの恨みもない人たちが命のやりとりをする話です。数限りなくある戦争映画の中で、これほど戦争のむなしさを訴える反戦映画はほかにないのではないかと思うくらい、徹底した反戦映画です。映画史に残る名作だと思います。
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