りょうた

サン★ロレンツォの夜のりょうたのネタバレレビュー・内容・結末

サン★ロレンツォの夜(1982年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

1982年 イタリア
監督:パオロ・タヴィアーニ、ヴィットリオ・タヴィアーニ
脚本:パオロ・タヴィアーニ、ヴィットリオ・タヴィアーニ、ジュリアーニ・G・デ・ネグリ(製作兼任。1974『アロンサンファン/気高い兄弟』~1990『太陽は夜も輝く』までの製作)、トニーノ・グエッラ(アンゲロプロス、『ノスタルジア』、『アマルコルド』など多数)
製作:ジュリアーニ・G・デ・ネグリ(製作兼任)
撮影:フランコ・ディ・ジャコモ(今作~2001『復活』まで、ベルトルッチ『暗殺の森』など)
美術:ジャンニ・ズバッラ(今作から、87『グッドモーニング・バビロン!』93『フィオレーリ』まで)
音楽:二コラ・ピオヴァーニ
編集:ロベルト・ペルピニャーニ(74『アロンサンファン』~90『太陽は夜も輝く』、初期のベルトルッチ64『革命前夜』、68『ベルトルッチの分身』、70『暗殺のオペラ』など)
出演:ガルヴァーノ/オメロ・アントヌッティ(エリセ83『エル・スール』、アンゲロプロス80『アレクサンダー大王』)
コンチェッタ/マルガリータ・ロサーノ
チェチリア/ミコル・グイデッリ(今作のみ)

最近なんの縁なのか、第二次世界大戦終戦間近の作品によく触れる。タブッキの『イタリア広場』からロッセリーニの作品と、偶然手に取ることが多い。またタブッキの故郷であるトスカーナ地方が舞台で、タヴィアーニ兄弟もここの出身で、おまけに敬愛するアッバス・キアロスタミが2010年に撮った作品も『トスカーナの贋作』でトスカーナ地方を舞台にしている。個人的な巡り合わせについては置いておいて、今作も第二次世界大戦終戦間際、ナチスドイツ軍占領下で、同郷のファシストらが、命令に従わなかったオメロ・アントヌッティや少女ミコル・グイデッリらを追跡する。逃げる村人たちは解放軍を待ち望みつつ、ファシストに襲われた際は、逃げながらもゲリラ戦で対抗する。この麦畑での銃撃戦のシーンが良い。幼馴染や親戚同士が銃を向けい殺しあう。あるものは恋人を失い、少女は祖父を失う。負傷した老人に駆け寄り、また、負傷した兵隊に駆け寄り、敵同士が背中を合わせて手当てをし、後ろに差し伸べた手でそれが敵だと知り、殺してしまう。悲惨としか言えないようなシーンだが、どこか拍子抜けするような瞬間も紛れ込んでいる。泣きそうにはなってしまったが、感傷的になり過ぎないところが良い。四方の見渡しがイマイチよくないという麦畑も効いている。悲惨な中にあるユーモアというのも、ミコル・グイデッリ演じる少女が大人になり、流れ星に願いを言うと叶うというサンロレンツォの夜に、娘の子守歌として聞かせているからということもある。ここも良いシーンなのだが、少女は麦畑の銃撃シーンの前に、言葉の通じないアメリカ兵(キャメルのタバコがあるから米兵ということにしたが、これも彼女の空想であるかもしれない)とにらめっこをして遊ぶシーン(仲良くなった米兵は少女に膨らませたコンドームを渡す。仲間の兵士の胸ポケットから使用済みらしきものをもらっていたことから兵士同士で性行為をしていたという暗示だろう。こういった性に対する描写の塩梅も絶妙。女性の排泄シーンやそれを見た少年が自慰行為をする様子も示唆されている。)や、教会で見た壁画の悪魔のモノマネなどがあることから、彼女の豊かな想像力は垣間見えるし、銃撃戦の古代ギリシャのような武具を着た兵士らの登場などから、この銃撃のシーンは特に彼女の空想が入り混じった世界だと言える。素晴らしいシーンが多かった。前半で弁護士の家に走りこむ姿(『無防備都市』を念頭においたようなショットだが、この走る姿が本当に良い。本当に走っている。)や、スイカで身体を洗って、それを恋心を寄せる男が食べるシーンは本当に好きだ。あれほど官能的なシーンはなかなか見れない。
気になった箇所としては、示唆や暗示といった見せ方が成功しているのに、説明的な台詞で補ってしまうあたりは如何なものかとなった。あと、空間的に把握しにくいものがいくつか。ファシストたちから隠れる村人と、遺体を運ぶファシストの切り替えしが、空間的なつながりを念頭に置いた場合に違和感がある。あと、ラストシーンで娘の寝顔を見るシーンの編集点が気になった。POVの撮り方撮っているのに、その後のショットは前を見ていた母親が娘を見る。それと、タヴィアーニ兄弟が映画を撮るきっかけとなり、今作でも描かれる、ドイツ軍による聖堂での大虐殺があるが、それを記憶の曖昧な六歳の少女の語り(実際にラストシーンでそう語る)というある種フィクショナルな構造にはめ込んで良いのか。
色々と書いたが総じて良かった作品だった。二コラ・ピオヴァーニによる印象的な音楽を劇中で繰り返すのも良いし、母親になった少女が怖いときにつぶやくように言われた言葉を唱える演出も本当にいい。
主人公の男をどこかで見たことがあるなと思って調べてみたら『エル・スール』の父親役をしていたオメロ・アントヌッティだった。また当時六歳の少女チェチリアを演じたミコル・グイデッリは今作のみの出演のようだ。
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