書くべきことなどないのだけれど
表面的な難解さなど微塵もなく、ただただ透き通っている。
時間の流れ、空間の広がり、あの味と匂い、交わす言葉。
歴史と精神、感情の機微。
その密度の高さは、名に限りなく近い。
言うべきことがあるとしたら「秋刀魚の味」という名だけだろう。
もし、そこまでいかなくとも、音楽のようである。
(例示を試みようかとも思ったけれど、野暮なのでやめときます。)
それを具現化するための技術(幾何学的な構図や不自然なカット割りや癖のある台詞のリズムや過度に押さえられた感情表現や)を挙げてみてもしょうがない。
この作品はもはや私たちに向けられていない。
ここまで澄んで、軽やかな精神は比類するものがない。
ただただ優れた作品の前で感謝するのみ。