いち麦

父ありきのいち麦のレビュー・感想・評価

父ありき(1942年製作の映画)
3.0
小津安二郎唯一の戦時中作品。脚本自体は日中戦争で召集される直前の1937年に仕上がっていたもので、一旦日本へ復員した後の1941年に撮影が始められたとのこと。撮影途中に太平洋戦争が勃発した。

息子思いの父と父親思いの息子の麗しき交流。成人になって就職後も一緒に暮らしたいと父親(笠智衆)に告げる息子(佐野周二)は、後の小津安二郎作品で度々見られる父親思いの未婚の娘の姿にも重なる。父・堀川が事故で生徒を死なせた責任を感じて教師を辞職するのも、亡くなった生徒の親御さんの気持ちを考えてのことであった。ただ、幾ら時代が古いからと言ってもこれほどの父・息子の良好な関係はとても珍しく感じられ、今の自分には正直いって余り心に響いてこなかった。

本作、笠智衆にとっては初の主演作品。若い頃の堀川を演じた笠智衆は口髭を蓄え柔和な優しいイケメンにさえ見える。歳をとった70歳の堀川の立ち居振る舞いはメイクの効果もあろうが見事なほどに老人そのもの(笠智衆、当時37歳)。この対比には目を見張るものがあった。
戦時中の日本の好戦色は全く感じられず不思議に思ったが、これは開戦後まだ間もない頃に撮影されたためなのではなく、戦後になってから多くの箇所がカットされたかららしい。これらの削除された映像があれば、父と息子の心情も切羽詰まったものとして自分の心により一層響いていたかも知れない。
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