てつこてつ

ペパーミント・キャンディーのてつこてつのレビュー・感想・評価

3.8
これを見るのは劇場公開時以来だから21年ぶりとなるのか。

「シュリ」が日本公開され大ヒットし、一躍、韓国映画ブームが到来したさなかに上映され、「シュリ」のようなエンタメ作品とは180度方向性が異なる作風で、それなりに印象には残っていたが、歳月が流れて見直してみると、色々と再発見する点も多く、再鑑賞して本当に良かった。

冒頭、鉄橋が架かる川沿いで開かれた同窓会にフラフラと現れた男が、突如、鉄橋に駆け上がり、「俺は帰りたい!!」絶叫しながら、突っ込んでくる列車に向かっていく・・

と、まさに死の瞬間に頭の中を駆け巡ると言われる走馬灯のように過去20年の男の生き様を時間軸を逆方向に遡っていくという手法。

視聴者も彼の人生の列車に乗ったかのようにレールの上を走る列車目線で1999年春を起点に、3日前、5年前、12年前、15年前、19年前、そして最後い20年前までの記憶を辿っていく形となる。ここのところをしっかりと分かっていないと5年前に出会った人物が過去に主人公とどういう関係性があったのか?等がこんがらがってくる畏れがあるので要注意。

落ちぶれ果てた主人公が何故に横柄な態度や汚い言葉づかいをするのか?のような最初に疑問に思う部分が、かつて彼が地方で刑事をしていた事が判明するとなるほど・・と納得できたりする。

にしても他の映画でも似たような描写はあったが、1980年代の韓国の地方の警察とか、ほぼリンチまがいの尋問行為とか平気で行っていたんだなとか、その当時のリーバイスともエドウィンとも思えないどこの国のブランドなのか皆目見当付かぬ絶妙にダサいGパン姿とか、その頃のラブホテルの内装とか時代を感じさせる文化や風俗の描写は興味深い。

ただ、いかんせん、時間を逆行して描いているので、何故、主人公が酒であんなに悪酔いするのか、キレるのか?と言った度々不快感を覚える行動が、やっと19年前の兵役時代に経験したある事件がきっかけとなって人生がガラリと変わってしまったのだと納得できる仕掛けなので、終盤まで主人公になかなか共感しずらいのが辛いところ。

撮影当時32歳のソル・ギョングの、老けメイクなどに頼ることない、20年に及ぶ歳月でのそれぞれの役の年齢に併せた演じ分けはお見事。

特にラストの20年前のシーンは、それまでの時代のシーンで演じてきたキャラクターからガラリと変えて、将来の夢や恋の希望に満ち満ちた純朴そのものの一人の青年としての佇まいが凄い。台詞の無い、まさに万感の思いを伝えるかの如く表情だけで見せるラストカットのシークエンスは、この作品後、ソル・ギョングが将来韓国を代表する実力派俳優として大成した実力をまさに裏付けるほどの演技力。

ソル・ギョングと並べる韓国を代表する演技派女優ムン・ソリの記念すべきデビュー作でもある。素朴な彼女の魅力は十分伝わるが、やはりこの作品での出番は控えめ。

1998年に遂に韓国が日本文化を解放した際に、初めて日韓合作で作り上げた作品であることも今になって知った。
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