Makiko

麦秋のMakikoのレビュー・感想・評価

麦秋(1951年製作の映画)
3.7
紀子三部作、これでコンプリート。この紀子が一番メンタル健康そうで、見ていて安心できた。でもなんか掴みどころのないキャラクターだなぁ、と感じて後半は間宮家の皆さんと一緒に心配しながら観てしまった。『晩春』でも『東京物語』でも、紀子を演っているときの原節子は常にニコニコしていて、本心を見せようとしない不気味さみたいなものがある。それが映画の後半になるとポロポロと崩れていくから面白いのだけど。
『晩春』然り、やっぱなんか最後ヤケクソ感があって、家族目線で見ればたしかに無常感から来る切なさもあるのだけど、紀子目線で見ると「みんなが結婚結婚うるさいから結婚してやったわよ、せいぜい寂しがりなさい」みたいな捨て台詞を飲み込んだ上での嫁入りにも思える。

紀子がキャサリン・ヘプバーンのファンという設定からもフェミニストぶりがわかる。「学生時分、ブロマイドこーんなに集めてたのよ」「女だろう。変態か?」というセリフが聞きたかったので満足。専務がなかなかのハラスメント野郎なおかげで物語のスパイスになっていた気もする。

パートナーのある女と独り身の女の距離感、よく考えたら、今もあんまり変わらないな……。これは現代にも通じるシスターフッド映画かも。
ちょくちょく挟まれる淡島千景との未婚者コンビのシーンが換気の役割を果たしていて、展開が重くなりすぎないのがいい。ふざけたズーズー弁の掛け合いが楽しい。
嫁・三宅邦子と小姑・原節子の仲が良いのも安心要素。嫁に行った後どうするかという話を、父母兄の前では心穏やかに話せない紀子が、この義理の姉の前では話せているのを見て『東京物語』での「他人>血の繋がった家族」の人物構図を思い出した。
海辺のシーンのみクレーン撮影がなされているとのことで、画面構図に動きは少ないのだけどローポジションによる圧迫感みたいなものは少なくて、開放感のある映像だった。

小津の映画では子どもが子どもらしくちゃんと憎たらしいのがリアル。
あと笠智衆が老け役ではないことに驚いた(本作では原節子の兄)。
割とカラッとした映画で親しみやすいはずなのだけど、やはり小津調のせいで様式美の中に全てが収まっている感じがアンバランスにも思えた。
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