IkTongRyo

タワーリング・インフェルノのIkTongRyoのレビュー・感想・評価

3.9
自らスタントをこなす不屈の男・スティーブ・マックイーンの頼もしさと、ポール・ニューマンのカッコ良さに痺れる、とっても怖い近代パニック・アクション映画の先駆け。

超高層ビルの大火災という、乱立したタワマンに住んでいる現代の都会人たちが抱え込んでいる悪夢を映画的スペクタクルで描く。『ダイ・ハード』等、80年代には主流となっていたパニック・アクション映画群よりもさらにスケールが大きい作品が1974年に公開されていたなんて知らなかった。

2時間45分に及ぶサスペンス。
見せ場の”つるべうち”、大小さまざまな課題が積み重なっていくので肩の力を抜くことができない。

冒頭から火災が起き、そこから延々と延焼が悪化していく。まさに最初からクライマックス。

そんな炎から生き延びるために奮闘するポール・ニューマンと、消し止めようと必死になるマックイーンの冒険活劇ともいえよう。

救助の方法も一つ見つかると別の要因でダメになり、次の方法を見つけてもまたダメになる。
そうしているうちに新たな問題が噴出する。
次々にサスペンスをたたみかけていく構成に惚れ惚れしてしまう。

一番好きだったのは、部下も死に、自分も何とか生き延び、疲れて頭を抱えているマックイーンに「屋外エレベーター問題」が報告されたとき。マックイーンの”勘弁してくれよ・・・”みたいな怒りや心配を通り越して呆れた表情がリアルすぎて印象に残った。

主役の2人以外にも、錚々たる顔ぶれ。
ウィリアム・ホールデン、フレッド・アステア、フェイ・ダナウェイ、ジェニファー・ジョーンズ、ロバート・ワグナー、リチャード・チェンバレン、ロバート・ヴォーン、O・J・シンプソン・・・挙げるとキリがない。

80年代以降のアクション映画と違うのは、今作では善人がバタバタと死んでいくところ。
現代映画だったら絶対に死なないようなキャラクターたちがあっけなく死ぬ。

主人公の同僚が最初の犠牲者となり(しかも結構な善人)、エレベーターで逃げ出そうとした来賓たちが焼け死に、ビルの広報部長と秘書が火だるまになったり落下したり・・・悪人、善人を問わず火災に巻き込まれてしまう悲劇が連続する。

リーダーシップを発揮し、火災にも動じなかったロバート・ヴォーン演じるゲイリー・パーカー上院議員も、マジで急に死ぬ。

特に中盤、ニューマンと一緒にずっと行動していた心優しいジェニファー・ジョーンズが一番の衝撃だった。ニューマンや子供たちと一緒に頑張って生き延びた功労者なのに、屋外エレベーターから滑り落ちてあっけなく死ぬ。

映画の最後、女性を探すフレッド・アステアのポカンとした表情が、火災の不条理さを物語る。

そんなところに儚さや意外を感じてしまった。
どこかで善人は死なないもの、という偏見があったのだ。

現代映画だと死ぬとしてもしっかりと死を描いて悲壮感を底上げするものなのに・・・

そういったサスペンスや悲壮感を全面バックアップする特撮の凄まじさこそ、今作の目玉といえよう。

CGの存在しない時代に、精巧な模型、セット、舞台装置、大量の火や水をふんだんに使い、観るものにリアルな恐怖を与える。

これを可能にしたのが、20世紀フォックスとワーナー・ブラザーズの合作という点。今でこそ巨大スタジオによる共作は珍しくもないが、今作はその先鞭を付けた作品と言われる。

今作の原作は2つの小説『そびえたつ地獄』と『タワーリング・インフェルノ』。

同じタイミングで超高層ビルの火災をテーマに書いた作家が2人いて、小説も2つ、そして映画化しようとしていたスタジオも2つ。そんな奇跡的な状況で、プロデューサーのアーウィン・アレンによるお膳立てが功を制し、歴史的快挙が実現したのだ。

結果として2つの物語のいい部分を混ぜ合わせ、大作映画2本分の予算を投入し、前代未聞のオールスターキャストが実現した。まさに映画史に残る映画だ。

音楽も壮大で素晴らしく、鑑賞後に巨匠ジョン・ウィリアムズの仕事だと知って驚愕。

今作の26年後に、今作の元ネタとなった110階建てのワールド・トレード・センターが現実世界で崩壊するとは誰も想像していなかった。

自分もタワマンに住んでいるので、他人事じゃないなと思いました。

この作品の前作、「ディザスター・フィルム」と呼ばれるジャンルを確立した『ポセイドン・アドベンチャー』も観たくなりました。
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