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ディア・ドクターのよのレビュー・感想・評価

ディア・ドクター(2009年製作の映画)
3.8
西川美和さんの書く小説にはいつも驚かされる。緻密で締まりがあって、完成度が高くて。一字一句から執筆に投下した思考量が伝わってきて、好きと迂闊に口に出すのが憚られるほどの畏敬を覚える。西川美和とはそういう名前である。
本業は、映画の方らしいのだが。

彼女の持ち味はアイスピックのように鋭い洞察力だとおもう。そして嫉妬しそうなほどの感性の煌めき。これらの相乗効果で、鳥肌が立つようなリアリティを叩き出すのである。
この凄まじいリアリティが小説だともはや蘞みのようにも感じられて、本棚の一番良いところに置いたそれを人に勧めたことはあまりない。プレゼントなんてもっての外だ。
しかし、映画はどうだろう? 言葉を細やかな挙動で置き換える、その試みを繰り返した結果灰汁の強さが中和され、実に落ち着いた観やすい作品に仕上がっている。チクリチクリと刺してくる毒にすら清涼感を覚える。心をざわつかせるような人間性を描ききったうえでここまで綺麗なまとめ方ができるのかと、やはり脱帽することしきりだった。もはや切ないくらいだった。

最後に、内容とは関係がないけれど。
自分が好きな小説家西川美和を曲解していないか、映画監督西川美和で答え合わせできて良かった。いかにも彼女が撮りそうだと腑に落ちるその度に、自分が好きなものを正しく理解できていると証明されているようで嬉しかった。
これから当作のスピンオフ小説『きのうの神様』を読む。ひとつの意外性もなく、ああ昨日観た映画の続きだ、西川作品らしいなあ、という読後感を得たいものだ。
よ