センゾー師匠

ディア・ドクターのセンゾー師匠のネタバレレビュー・内容・結末

ディア・ドクター(2009年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

どんな話か全く知識ないまま観た。いい意味で裏切られた。

嘘をつきながらも、その嘘は限りなく他者に寄り添っている。はたしてその嘘は悪なのか?

医師免許を持たず、過疎の村の唯一の医者として村人に寄り添う医師、伊野。
嘘をつきながらも地域の人に寄り添い、信頼を得ている。

後半、逃亡中の伊野が実家に電話をかける。もう痴呆症が進んで息子のこともわからない父との会話で、父のような医師を目指していたが挫折して医療機器メーカーの営業になったと考えられる。

製薬会社の営業の斉門は共犯関係のような間柄だ。伊野の失踪後に、刑事の事情聴取でわざと後ろに倒れるところを刑事に助けられる。そこで「これは愛ですか?」と問う。誰かを助ける行為、伊野の「犯罪行為」に対する問いだろう。

ベテラン看護婦の大竹も少し不審に思いつつも、伊野をサポートする。彼は紛れもなく村にとって必要な「医師」だった。それを分かった彼女は、最後まで騙されるフリをする。


研修に来た新米の医師の相馬は、村人に頼られる伊野の姿に次第に心を動かされ本気で地域医療に取り組みたいという気持ちを持つ。

そんな相馬のまっすぐな尊敬の念に、つい本気で、自分が尊敬される人間でもなく、「資格がない」と言う。しかし相馬はそうは受け取らない。

刑事の聞き取り調査で

伊野の嘘は、患者であるかづ子が自分の体調のことを自分の子どもたちに黙っていて欲しいと頼まれたことから綻び始める。伊野が患者に寄り添ったからこそ、自身の立場のリスクの侵し、かづ子と一緒に嘘をつくことになる。

医師であるかづ子の娘が、病室でただ何もせず佇む母を見て、何を思ったか。

母は適切な医療を受け、死なずに済むかもしれない。死なないことは、生きていることなのか。刑事がかづ子を訪ねて伊野について質問するシーンで伊野はかづ子に「何もしなかった」とかづ子は言う。それこそが彼女が求めていたことだったからだ。

「あの先生はどう母を死なせたんでしょうね」と言うかづ子の娘のセリフには、伊野への憎しみや怒りは感じられない。医師として娘として、病気の母にどう向き合うかの答えを未だ探しているようだった。

見返すと冒頭で来たばかりの相馬(しかも事故った)に車出してというシーンで「免許ありまへんねん。」というのが伏線だったのに気づく。

鶴瓶がびっくりするほどいい。余貴美子とか八千草薫、松重豊、香川照之は当たり前だが、瑛太も井川遥もかなり良かった。