垂直落下式サミング

ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.7
なんてったって、カメーバ推し。三匹の怪物の造形に関しては、東宝・円谷特撮にしてはデフォルメが軽いけれど、キャラクターとしてインパクトはじゅうぶん。
ガニメは、おいしそう。カメーバは、よちよちあんよのかわいさが勝利してる。ゲゾラはキモいです。引っ込んでください。
本作は、出てくるモンスターのことを「怪獣」とは呼ばずに「怪物」と言っていて、お化け映画よりもモンスター映画を目指しているようだ。巨大クリーチャーの設定や、人々との戦いの撮りかたが、アメリカのグラインドハウスムービーっぽい。
小屋のなかでゲゾラの触手に襲われるシーンは、上から横から多角的に状況をとらえるカメラワークや、それをつなぎ合わせてスリルを演出する凝ったモンタージュ。ガニメが島民たちを追いかけてくる場面で、カメラが進行方向に横移動するトラック撮影はエクスタシー。センスのいい映像が随所にみられる。
ガニメとカメーバが対決するクライマックスは、カメーバの頭突きが明らかにチンコを狙っていて笑ってしまったけど、ハサミ攻撃や噛みつきは、普通に痛そうでみているのが辛かった。
宇宙生物は、小畑とガニメとカメーバに分裂してるとか言ってたが、ガニメは爆死した気がしたんだけど?可愛いからいいか。殻にこもるカメーバもかわいいよ。
島民たちが日本人に好意的なのは、太平洋戦争中に旧日本軍に占領されていた歴史があるかららしい。そこに、また日本人がずけずけと入っていってトラブルを引き起こすのは、ちょっと後ろめたいモヤモヤが…。
安寧と平和を享受する高度経済成長期において、さわられたくない傷跡をもう一回ひろげて、かさぶたを引っ掻き続けるのが、戦後日本のヒューマニズム。東南アジアの人たちは日本語うまくてすごいわねとか、旅行先で無配慮にほざいてると、こういうことになるってわけ。
飄々と絡んでくる産業スパイはお調子者でニヒリストだが、呪いを引き受けることで地球を救う。敗戦国的な悲壮。日本人は犠牲なしに平和を描くことはできないらしい。
ストリートビューで世界中のある程度のところまではどこにでも行けちゃう時代に、神秘の未開域をイキイキと冒険する物語をサクッと。とても得難い体験だった。
クランクイン直後に円谷英二先生が死去されたとのことで、オヤジさん不在の現場で撮影・製作された作品だったと言う。反戦思想はしっかりと継承されていた。怪獣ブームを牽引し続けて旅立った巨匠に合掌。