男はくらいよ監督さそり

近松物語の男はくらいよ監督さそりのレビュー・感想・評価

近松物語(1954年製作の映画)
5.0
お見事!溝口健二監督の、ちょっとした事から主人公の身上がガタガタと崩れてゆく過程の容赦無さが観客の胸を締め付ける。登場人物のちょっとした仕草、表情で心理を浮かび上がらせる完璧な演出と演技と撮影はこれぞ完全主義と呼べる名人芸。長谷川一夫、香川京子の演技が素晴らしく、「情」で全てが動く物語は日本映画にしか表現しえない世界。この映画観ると、それ以降の日本映画はなんだったのか?と情けなく思ってしまう。これと『山椒大夫』を同じ年に公開した溝口健二は神なのか?
山椒大夫でも憎々しかった進藤英太郎の慇懃無礼な小悪党ぶりが憎らしくも滑稽で今でもこういう男いるなあと思わせる。若い南田洋子の可憐さは最近のアイドルの比ではない。音楽、音響が繊細で素晴らしい!ある意味最高のハッピーエンドの完全無欠の恋愛映画の名作。