一人旅

コード・アンノウンの一人旅のレビュー・感想・評価

コード・アンノウン(2000年製作の映画)
5.0
ミヒャエル・ハネケ監督作。

パリを舞台に、出自もばらばらな人々の日常を見つめた群像ドラマ。

ハネケ11本目のレビューは長編劇映画第5作『コード:アンノウン』。
映画を撮影中の女優:アンヌ、彼女の恋人で報道カメラマンのジョルジュとその弟:ジャン、ルーマニア移民の物乞いの女:マリア、聾唖の妹を持つ黒人青年:アマドゥら、人種も国籍も異なる複数の男女の日常を交互に、断片的に映し出した群像ドラマとなっています。

現代社会における人間関係の希薄を鋭く炙り出した映画で、他者(家族を含む)に対する無理解と無関心、言葉は交わし合っても通い合うことのない心と心の空虚な様相を、場面と場面が繋がらない(継ぎ接ぎな)編集に乗せて描き出しています。『ある戦慄』(67)を連想させる、地下鉄でチンピラに絡まれている女性を他の乗客達が見て見ぬふりする場面や、移民や有色人種に対する人々の差別的言動を垣間見せる場面、隣家で起きる児童虐待死の場面等に、現代社会の病巣を見る社会派群像劇で、コミュニケーションの断絶・人間関係の断絶(破綻以前に深く関わろうとしない)を徹底した諦観的視点で眺めています。希望を抱かせないハネケらしい着地は、現代社会の殺伐とした現実を観客に突き付けている一方で、言葉を持たない聾唖の子供たちが奏でる太鼓の打音の一体感だけが場面を飛び越え世界全体を包み込むという皮肉(言葉のない世界に生きる者の方が他者と深い領域で繋がり合う)に唸らされます。

女優を演じたジュリエット・ビノシュの熱演にも拍手を送りたい一篇で、恋人に痛烈な“口撃”をしたことに罪悪感を抱く姿が真に迫っていますし、言葉で心情を表現する女優としての姿と、他者とのコミュニケーションが不十分な実際の彼女自身を対比させた名演を魅せています。
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