Jeffrey

わが故郷の歌のJeffreyのレビュー・感想・評価

わが故郷の歌(2002年製作の映画)
3.5
‪「わが故郷の歌」

‪冒頭、イラン側クルディスタン。戦乱のイラクへと旅立つ、不気味な爆撃音、息子、希望、歌、バイクで横断、婚礼、市場、集団墓地、夜のテント、手紙、土に埋もれた人。今、妻を助けるべく、息子らと旅に出る…‬‪本作は「酔っぱらった馬の時間」で世界的な注目を集めたクルド人監督バフマン・コバディの長編第2作目にあたり、イラン・イラク戦争終結後の両国国境地帯を舞台にクルドのミュージシャン親子の珍道中を描いた映画で、またしてもクルド人の置かれた過酷な現実を抉り出している。

本作に登場する縦笛や太鼓、弦楽器など民族楽器が非常に独特な音色を奏でて、歌う彼らの姿や踊りが美しく、クルド人の誇りを映し出している。‬本作は冒頭からひたすらバイクに乗る男性同士が喋るシーンが続く。砂埃舞う険しい道のりを描く。本作も国境付近になると一面雪化粧した世界が映し出される。‬チャドル的な装いで、女性たちが土を掘ったり、揉んだり足で踏んだりするシーンの手足のクローズアップが、とてつもなく印象を残す。

また、髪をほぐしながら踊るかの様にステップする女性の気品溢れる美しさ、自然体でイランと言う土地柄の自然観を非常に堪能できる。また夜のキャンプ場のシーンは幻想的で、灯りに篭ったテント内を外から描写する映像やバイクをにけつで走る山岳地帯の荒涼とした自然がまたなんとも美しい。これはキアロスタミのジグザグ道3部作や「風が吹くまま」とすごく似ている。雪道をロングショットで映したり、それこそ前作同様に有刺鉄線を跨る老人の画作りもインパクトある。

また乾いた大地から雪山に変わったり、シリアスな内容の割には、滑稽な部分もある。例えば頭から下がすべて土に埋まったオヤジと子供のやりとりや、立ち小便する男と子供3人のやりとりなど笑える。それとイランでは日本製のものが好まれると言うのは知っていたが、やはりこの映画でもラジオは日本製だと言う場面がある。ジャリリ監督の作品の中でもそうだったように…確か。

‬さて、物語はイランのクルド人村に住む1人の老歌手が、息子2人と共にかつての妻を救うべく、旅に出る…と簡単に説明するとこんな感じで、この作品を見ているとクルド人ゲリラの村々を一斉に攻撃したり、化学兵器と爆撃、それから強制収容所など様々な虐殺などを隠蔽したイラク政府の恐ろしさが伝わる。登場人物も憎きサダム・フセインと何度も口にしている…。

そしてこの作品はコミカルな3人の登場人物によって非常に滑稽で肉体的もしくは身体的な特徴が印象に残る映画でもある。面白い事に密林業者が出てくる為、前作の続編かの様な感じがしてしまう…にしても、クルド人から歌や音楽を取り上げたら…それこそ存在が無くなってしまう…そんな描き方をしている様に見える。それに印象的に残ったのが、劇中の登場人物の1人である男性が毒ガスによって息子が殺されたと言う物語歌詞にして歌っているところだ。

余談だが、この作品には監督自身の母親が出演している。それは終盤に登場するとある女性だ。確認するのも面白いかもしれない。また主演の3人は本職はクルド音楽のミュージシャンである。それは大体肌で感じられるが、やはり素人を演じさせる、その演技の導き方はイラン全監督は皆、凄まじい。

そういえば、トランプがイラン国籍の人の入国を一時的に拒否したという事が2、3年前にあったと思うが、その当時は確か「セールスマン」の監督のアスガル・ファルハーディーが授賞式に講義と言う形で現れなかった。この作品の時もシカゴでの受賞式に監督はいけなかったそうだ。

それはキアロスタミも同じで、ニューヨーク映画祭での入国を拒否されて、結局はイラン国籍と言う問題がそうだったようだ。アメリカとイランの因縁はアメリカ同時多発テロ事件以降加熱しまくりだ。

まだ、未見の方はお勧めだ。
Jeffrey

Jeffrey