一瞬にして、あなたを虜にする異性が現れて、相手からさりげなく誘われて、悪気がなさそうだったら、恋してみたくなりませんか?
この映画の主人公も、仕事先でそんな相手と出会います。
主人公は性格も穏やかで自然と人気が集まる文芸評論家、お相手はスタイル・容姿が人間離れした美しさを放つ「スチュワーデス」。
わくわくする恋心は、最初の出会いのシーンによく表れています。
機内で働く彼女が、業務用の味気ない靴から、ハイヒールに履き替えて恋に備える女に変わる瞬間を、主人公はその足元しか見えないのに、想像を膨らませてほくそ笑みます。
恋の始まりが、こんなにサラッと描けるのは、映画の神様ならではの手腕でしょう。
旅先のリスボンで同じホテルに泊まり、ぎこちなく始まった出会いも、最後はしっかりと一線を超えていきます。
フランス人の二人は、国に帰ってからも、ウキウキとデートを重ねます。
主人公が彼女と車でデートした時、彼女がジーンズからスカートに履き替えて彼を喜ばせるエピソードは、もう彼の笑顔が爆発してる表情で充分伝わります。
ふたりの関係は、まさに柔らかい肌が馴染む、そんなキラキラした前半部分。
この映画を観て想うのです。
どうして、人はある程度常識を身につけてしまったら、恋をしてはいけないのか、と。
後半からラストは、まるでキリスト教原理主義に乗っ取られたようで、ある意味別の映画を観ている感覚に陥りました。
ほとんどの人は、この映画の中間で、モヤモヤしながらもバランスを取って生きているのが現実ですが、こういう夢と悪夢を1本の作品に凝縮したトリュフォーの凄さに、改めて感謝した素敵な映画でした。