いち麦

早春のいち麦のレビュー・感想・評価

早春(1956年製作の映画)
3.0
前作「東京物語」から一転。夫の浮気と夫婦の危機・再出発をメインにした物語。正直なところ、あまり響かなかった。イケメン池部良と快活で美しい岸惠子だからこそ成り立つような浮気話。そもそも夫・正二(池部良)は浮気以前に麻雀やら深酒やら遊び過ぎで見るからにいいところなし。幼い子を失った心の傷は殆ど感じられない。周囲を取り巻く女性陣さえ亭主の浮気は日常茶飯事のようであまり動揺してないし、何より転地で妻・昌子(淡島千景)があっさり夫を許してしまうのはちょっと不甲斐なく思った。まさに「女は三界に家なし」か。また、遊び友達・青木大造(高橋貞二)が自分の妻の妊娠を正二に相談するときの会話は当時なら普通なのかも知れないが、今見ると嫌な感じだった。

もう一つ、この映画は丸ビルに勤める東京のサラリーマンの現実、日常と悲哀を描いて見せているのもポイントだろう。この時代には世間一般のサラリーマン生活に対する憧れがあったのかも知れない。「ドント節」(“サラリーマンは〜気楽な稼業と来たもんだ〜…”)がヒットしたのがこの数年後だし。
蒲田発大宮行きの電車を待つ通勤客がこの時代からもう既にホームに溢れている(東京駅で降りるサラリーマン客は当時34万人とか)。休みの日に会社の電車通勤仲間(同僚)が数人、家族同伴可でハイキングに行くのが妙に明るく健康的で不思議な光景に映った。麻雀を打ちながら歌うのは「湯島の白梅」。転勤の話に会社の組合がちゃんと口を挟む余地があるのも大いにこの時代を感じさせる。

今までお婆さん役でしか見たことのなかった浦辺粂子の中年役(妻・昌子の母親でおでん屋を営む)を初めて見た。
いち麦

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